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出来れば二本足で立ちたい


「無理だめ怖い」


ニドリーノのご主人であるトレーナーの男は暗がりが大の苦手であった。
夜は街灯がない道は歩かないし、眠るときには小さい灯りをつけて寝ないと眠れない。
これは昔、ご主人がまだ鼻水垂らしてヨチヨチ歩きをしていたガキの頃、親と逸れて一人夜の草むらを歩き、人間の子どもをおどかしにやって来たゴースと出くわしたのが原因で、今でもゴーストタイプは大嫌いである。

なのでご主人は今も、オツキミ山の入り口の前で泣きべそかいてニドリーノのゴツゴツとした背中に突っ伏して泣いていた。
ニドリーノはそんな主人の失態にも慣れっこだったが、最近仲間になったばかりの新参であるリザードは主人の周りを無意味に回りながらオロオロとしている。落ち着け、と尻尾をビタンするとその動きをやめた。そう、それでいい。こうなった場合の主人を立ち直らせる方法はただ一つ。






「ううう……ニドリーノ絶対だぞ……絶対に俺を置いて行くんじゃないぞ……」


ニドリーノと比べれば身体の大きなご主人は、それでもニドリーノの背中にへばりついている。
トゲトゲだらけの背中に顔を突っ伏し、必死にオツキミ山洞窟内部の様子を目に入れないようにしていた。
こうやって無理矢理にでも連れて行くしかない。主人はこの山を越え、ハナダシティに行くと言っていたのだから。

「グルゥ」

「ううう……と、隣歩いてんのはリザードか……?仄かにあったかいぃ……」


リザードの尻尾の火を光源と、ご主人用の暖として使えているのが幸いした。
おかげでニドリーノは主人を背に乗せたまま、道の石に躓くこともないし、ズバット達も近寄ってこない。

それにしても、主人も大きくなったとニドリーノは感慨に耽る。昔はあんなに小さかったのに、と言えばそれはニドリーノ自身にもニドランだった頃の記憶が思い起こされる。

出来ればニドリーノは、もう少し身体を大きく成長させたくあった。
そうすれば今よりも楽に、暗がりを怖がる主人を上手く運べるような気がするのだ。


お前が大きくなってもいいぞ。

そうリザードに目を配れば、リザードは曖昧に頷いた。
やれやれ。




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