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「#幼馴染」のBL小説を読む
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おまえのためだよ


ウタカタの里の我が家へと帰りつくのは、何日ぶりになるだろう。

桜花、速鳥と共に、「安」の時代にて残存していた鬼の掃討任務に出ており、なかなか帰って来られずにいたのだ。天狐の顔を見るのも、久しぶりになる。飼い主の帰還を心待ちにしていてくれたのか、敷居を跨いだと同時に柔らかな毛の持ち主は胸の中へと飛び込みながら出迎えてくれた。


「ただいま、天狐」


キュウ、と喉を鳴らして、ニコニコ笑いながら見上げてくる様は何とも可愛らしい。帰りがけに万屋で購入した団子を渡してやる。一層大きくなった尻尾の振りように、現金な奴めと笑いがこぼれた。

頭部装備を外し、武器を立て掛け、鎧を脱ぎ、篭手を外し、軽装になり囲炉裏の横に座ってようやく一息つけた。


「キュウ!」
「 ん? どうした…って、おっと」


団子を口に咥えたまま、掻いていた胡坐の上に天狐がどっしりと乗りかかってくる。もぞもぞと動き、安定した位置を見つけると、また一つ鳴いて見上げて来た。


「はは、甘えてるのか?」


珍しいな、と口にすれば、天狐はまた鳴いた。色の強い瞳がじっと見つめて来るのでこちらも負けじと見返してみる。

速鳥がもしもこの場にいたならば、天狐が大好きなあいつは何を思うかな。
相変わらず、することもないと言うのに、俺への衷心とやらで家の前で見張り番をしている筈だから、呼んでやろうか。と思ったが。



『ふむ、君もなかなかに薄情者なのだな』

「 ムスヒか。なんだ藪から棒に」


ミタマ体となったムスヒの君は『だってそうだろう』と前置いた上で


『その愛らしい愛玩動物を独り占めしよう、今きみはそう思っただろう?』


そうだ。 そう思っただろう。 ええ思ったはずよ。 主、正直に告白したらどうかな?


ムスヒの声に同調して、俺の心の中にいる面白いこと好きのミタマたちが騒ぎ始めた。
あっと言う間に、俺と天狐しかいない我が家内がミタマたちの声で満ちる。
ミタマの声が聞こえていない天狐は、急に独り言を発した俺を訝しそうに見上げてくる。その澄んだ目に、いや、違うと、後ろめたくもないのに弁解したくなってきた。


「べ、別に俺は天狐を独り占めしようなどとは決して…!」
『ほ〜う? 本当に?私の眼を見て同じ事を言えるかな?』
「っ!  速鳥!!」
「お呼びか、隊長」


一拍も置かず天井から現れた速鳥は俺の方を向きながらも目線は天狐へと釘付けだった。こいつ。


「お前は今回の任務でとてもよく働いていたからな。褒美としてうちの天狐を好きなだけ触らせてやろう」
「!」


これでどうだ、もう妙な言いがかりはできまい。
心の内でそう呟けば、ムスヒを始めとしたミタマたちはえらく楽しげに笑い声を上げるだけだった。
囲炉裏の向かい側では、許しを得たので堂々と天狐を愛でている速鳥と、大人しく速鳥に撫でられながら団子を頬張っている天狐の姿。
やれやれ。




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