背中に生えた翼が黒色に染まったあの日から、私は陽の目を浴びてはならぬ存在になった。
私のマスターであるお方はさぞや落胆を受けた事であろう。地に堕ちた"私"などではなく、熾天の座に君臨する"私"が欲しいと思っていた筈だ。
金色の卵から生まれた瞬間の事はあまり覚えていない。
いや、敢えて目を背けていたと言う方が正しい。マスターの顔は見れなかった。悲哀か、後悔か、さもなくば己の不運さえも呪っていたかも知れない。
せめて己が持つ力量の範囲内で出来ることをしようと言う決意のようなものはあったが、従順に居られる自信が無かった。
天界からいくら堕ちていようとも、私は神魔王である。
本来ならば脆弱なニンゲンの下に付き従うなど我慢ならない愚行であった。
しかし、しかし、
「ルシファー? またいつものネガティブタイムか?よく飽きないなぁ、お前も」
『……余計なことを口出しするな。この私が、お前のようなニンゲンの身を案じて言ってやっているのだぞ。感謝に震え、賛美しろ』
「はいはい。アリガトウゴザイマス、ルシファー様〜」
『莫迦にしているのか貴様』
嗚呼またこのような口を叩いてしまったと直ぐに後悔した。
例えマスターが私を手中に収めた時に「ルシファーじゃんか!俺の運も捨てたもんじゃねー!」と言って喜んでいたとしても、胸中では前述のような事を思っていたかも知れないだろう。その"もしも"を案じて何が悪い。心構えはしておいて損はしないのだ。破棄される覚悟も、他のものの糧にされる覚悟も、私の中では随分と前から出来ている。なのにどうしてかこのマスターはそれを実行に移さない。何故だ?
私は、不必要であろうに。
「いやぁ、まったくルシファーは優しい奴だよな」
『…何を言い出す痴れ者が!この私を掴まえて"優しい"と抜かすなど…』
「優しいだろ、ルシファー」
『…っ!』
ニンゲンのくせに、どうしてその様に目に光が灯すのだ。それに何処から来る、その根拠は一体
「力を上げるだけじゃないもんな、お前は」
『…なに?』
「怪我をした時の為のことも考えてくれてるんだよな、ルシファーはさ」
『!!』
…しかし私のマスターはこう言うニンゲンなのだ。…幸運、にも
(攻撃力2倍だけじゃなくて回復力も2倍にしてくれる堕ルシさんマジ堕天使)
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