▼ 不幸
海兵達の見事な働きぶりにより、ナマエの船は当初の目的地に到着した
海上で発生する靄が周囲の視界を遮る見通しの悪い場所で、見張りチームがどんなに望遠鏡の縮尺を弄っても、船影1つ見当たらない
海兵達は背筋が凍った気がした。 これでは、ナマエさんの気が、晴れないではないか
「…… ……」
目に見えてナマエの気は苛立っている。いつもつり気味の目は黒く淀み、神経質に腕組みをした手で自身の腕をトントン、トントン、と叩いている。海兵は泣きそうになった
(だ、誰でもいいから出てきてくれー!)
(どこの海賊でもいいからあー!)
(頼むー!死ぬー!!)
涙まじりに天に祈った。己の保身、それが確保できるならどこの海賊団が現れようと構わない。いきり立ったナマエ少将にどうせ死ぬまで殺されるのだ。
海軍中将ガープ殿の下で修行を積んだ身の上で、繰り出される拳骨の威力は師に勝るとも劣らない。敵の首を千切っては投げ、千切っては埋める様相はまるで悪鬼のそれ。それが正に自分達の背中を追いすがっているのだ。
頼む!誰でもいい!頼むー!!
海兵達の悲鳴が海に届いたのか届いてないのかは置いといて、「だぶべべぶべー!」と言う声が聞こえて来たのは確かだ
「ナマエ殿!!」
「なんだぁ…?殺してもいいのはいたか…?」
「い、いえ!いや、はい? ええとともかく、2時の方向で溺れてる者が!」
「誰だこんな海で!!」
「"麦わら"のルフィです!」
「…………、…………」
「…?あ、あの、ナマエ殿…?」
麦わらのルフィ
その名前を聞いたナマエは、がっくりと頭を垂らした。先ほどまでの鬼のような形相が嘘のように、暗い表情をしている意味が海兵には分からない
「……なぜ、よりにもよってモンキー・D・ルフィなんかと……」
まさか、知り合い…?と海兵は身震いした。
あのナマエ殿と、生きた海賊が知り合いであるわけがないのだ
「麦わらのルフィ、確保しました!いかが致しましょうかナマエ殿!」
「………縄で縛っとけ」
「――は?…は、…はい!?」
ほら見ろ みんなうろたえてる
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