8万企画小説 | ナノ
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▼ 宵の酒は美味かろう


ナマエがモビー・ディック号に乗り込んでから、初めての酒宴
夜月を見ながら酒に食に華を咲かす男たちの姿をナマエは観察していた。
いつもは遠巻きに見ていた甲板の様子を、こうして平面から見えるようになったことが新鮮でたまらなかった

向こうでコックから追加の食べ物を受け取りに行っているエースからもじっと目を離さずにいるナマエに、サッチが大皿に乗った料理を持ってきた



「おうナマエ!肉食うか?うっめぇぞぉ!」
「いや……」



海王類と言うのは人間よりも長命だ。長い時を生き続ければ、故に麻痺してしまっている感覚も存在する。ナマエにとってはそれが"食欲"だった。大きな体を維持するためのエネルギーは他の海王類と比べて特に必要がない。あまり活発的に動く性分でもなく、食に対する意識も薄めで、白ひげのクルー達が親切で食物をすすめてくれなくとも構わないのだが



「いいじゃねーか!ナマエもこれ食おうぜ!」
「エースが言うならば」
「潔いほど露骨だな!」



隣に腰を下ろしたエースから骨付きの肉と酒樽を受け取ったナマエは、まじまじとその二つを見つめている。初めて見るものだった。この液体はなんだ?と鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。プンと香ってきた鼻につく匂いに、顔を顰めたナマエはこれは何?と隣のエースに問いかけた



「酒だ。知らねーのか?」
「あぁ、これが酒か……」
「飲んでみろよ!美味いから!」
「わかった」



大きな口に酒を一気に流し込んだナマエに慌てたのは、飲み終わった後のナマエを見たエースとサッチ達だった。一気飲みするとは思っていなかった。見る見るナマエの顔は赤くなり、鋭く尖った目が心なしかぼんやりとしている
エースはナマエの肩に手を置いて揺すりながら声をかけた。しかし心配していたような事はなく、はっきりとしたナマエの返事がかえってくる



「……不思議な味だ」
「だ、大丈夫か?初めて飲むんだろ?熱くなってねぇか?」
「多少火照りを感じる。…エースは、こんなものをよく好んで飲める」
「大丈夫ならよかった。 まぁ、慣れだよな酒ってのは!」



あっちのジョズとマルコ見てみろよ!樽ごとがぶ飲みしてるぜ!
指差された方向を見てみるとなるほど、ナマエが白ひげの船に初めて会った時に見た男の2人が他の人間達に囲まれ囃されながら樽を傾けていた。見ているだけで胸のあたりが焼け付くようだ。
もう飲むものか、とナマエが酒瓶を置こうとすれば、反対側の隣にラクヨウがどすんと居座ってきた。もう既に顔は赤くなっていて、その手には開けられていない三本の酒瓶が握られている



「海王類〜!飲んでっかー!」
「おいこらラクヨウ!ナマエはナマエっつー名前があんだからちゃんと呼べよ!」
「へーへー、ナマエな、ナマエ まだ酒飲むだろ?ほら!」
「………エース、これはナマエは受け取るべきか?」
「どっちでもいいぜ。 なんなら突き返したっていいぞ」
「わかった」
「――え」



――ドン!

鈍い音が聞こえ、ラクヨウの体が真っ直ぐに手前のグループの中に飛んで行った
「わあああなんだ!?」「ラクヨウが垂直に飛んできたぞ!!」ラクヨウは「?、?」と自分の身に何が起きたのかまだ判断していないらしい。エースはあんぐりと口を開けたまま固まった。
隣のナマエが軽く手を突き出しただけで、ラクヨウが吹っ飛んでいったのを見てしまった



「……ナマエ、お前……」
「? エースは『突き返してもいい』と言った」
「その"突き"返すじゃねぇって!」



ああ哀れなラクヨウ 人間の言葉を上手く操れないナマエを理解してやれてなかったエースが悪い
フラフラと頭を押さえているラクヨウに、「すまーんラクヨウー!怪我ぁねぇかー!?」と声をかければ「ういーだいじょぶだー」と赤い顔のまま笑っている。なんだ、案外平気そうだ。ラクヨウを受け止めたグループはしばらくポカンとしていたが、じきに酒の席に戻っていった。よかった、喧嘩にならねぇで、とエースは胸を下ろす



「何か、まずいことをしたか」
「…あー、いや、うん。あんま間違ってねぇ」
「そうか。ナマエはまだまだ人間の言葉を勉強する必要がある」

「……ナマエって、自分のこと名前で呼んでんのか?なんで?」
「もらった名前で呼んではいけないのか?」
「や、んなこたぁないけど、幼稚っぽく感じるヤツもいるんじゃねーかと思って」
「昔は"わたし"を名乗ってたが、ロジャーから名前をもらったからな。忘れないように、と思って」
「…自分の名前忘れるかもしんねーのか」
「長生きだからな、我々は」



ナマエは20年前にロジャーと交わした『エースを守る』と言う約束を守る為にこうしてエースの前に姿を現したが、それは恐らくナマエにとっては『暇潰し』でしかないのだろう
長い時を無作為に過ごすのは勿体無いから…とでも思ってるのかもしれない。
エースはむかっ腹を立てた。理由はよく分からないが、"期待"し、"嬉しがっている"自分が少し子どもっぽく思えたからだ




「…おら!どんどん酒飲めナマエ!酒の味を覚えてからが大人だって昔オヤジが言ってた!」
「あの大男が?まあそれでなくともナマエはエースの言うことなら聞く。どんどん酒を飲もう」
「や、やっぱ分量は守ってな!」
「どっちなんだ?」





ヒラヒラと揺れる両腕から生えた鰭を揺らしながら、酒瓶を煽る
ナマエは今夜、人間の酒の味を覚えた


あと、意外にエースは子どもっぽいと言うことも




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▼4万企画@人間に心を奪われた海王類の話 続編/ゆきさん
リクエストありがとうございました!



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