▼ きみを好きになるのがこわい
人を殺してやりたい。そう思ったことは、少ない
「殺してやりたい」とはつまり、今の状況ではその人物を「殺せずにいる」と言う意味になる
気に入らない者はみんな殺してきた。自分にはそれが可能だったからだ。
だが殺せない人間が出来た。どうしても出来ない。クロコダイルが力を使えば、一捻りで砂に返りそうな奴であるのに
なぜだ、どうしてだ、と困惑するばかりで、
クロコダイルはそれがとても許せないことであった
己の野望の為に全てを棄てて来たと言うのに、その存在は小さくも大きく、賢くも愚かでもないくせに、クロコダイルの野心の邪魔をする。
鈍るのだ。感覚が、思考が、力が
揺らぐのだ。決意が、望みが、心臓が
ここに来て自分の軸がブレてしまうのは計画の損害で
どうにかして消せ、殺せ、潰せ、と考えるのだが、あの人間が自分の前からいなくなったその時を考えると「厭だ」と思ってしまう自分がいるのである。救えない
本当に、救われないんだ
「………………」
「……クロコダイル? 眠っているのか…?」
思考の波に浚われていただけで眠っている訳ではない。が、後から入室してきたナマエは椅子に凭れ目を閉じているクロコダイルを"眠っている"と判断したらしい。起こさないようにと言う気遣いか、足音も立てずに近付いて来るその存在に、クロコダイルは自分の心臓の音が煩わしくて耳を塞ぎたい衝動に駆られた。しかし此処で、起きているとナマエに教えてやるのも癪だった。大方、仕事の話をしにクロコダイル邸を訪れたんだろう。仕事の話が終われば直ぐに去って行くこの男を少しでも引き止める為に嘘を吐く。そんな自分に、クロコダイルは虫唾がはしる
「……起こしては、まずいだろうか。疲れているだろうしな……」
すぐ近くで聞こえてくるナマエの声に身を捩りたくなった。
その声があまりにも心配の色を含んでいるから
殴らせろ。殺したくはないから、お前のことを一度思い切り殴らせろ、ナマエ
「………………」
嗚呼。何故自分は、この男を殺せない。
簡単じゃないか。いつも海賊や反逆者にしているように、この男の首を掴んで萎れさせばいい。幾ら闇世界の傭兵をやっていようとも只の人間のコイツが、飢えから生き延びることはないのだから。至極容易。
しかし、
しかし、
でも、
「………、……」
「…?クロコダイル、起きて…… !?」
「…っ……」
「な、なぜ泣いている? おい、クロコダイル、」
「………うるさい、…」
五月蝿い。お前の声が、耳の奥でずっと反響して、とてもうるさいんだ
なぜ。何故お前はおれの前に現れた。お前が居なければおれは、
これからもずっと、元のおれのままでいられたのに
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odai::臍
▼クロコダイルを泣かせる男主
リクエストありがとうございました!
(クロコダイルの計画に加担している傭兵主)
(キャパシティ崩壊を起こしたクロコダイル)
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