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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼ 喰われるならお前がいい



ナマエは泣きたい気持ちで一杯だった。
寧ろナマエ本人の我慢していた気持ちとは裏腹にボタッと大きな水塊が落ちて、無駄に吸収性のあるマットに吸い込まれて行ったの呆然と見送った。
昨日主人から告げられた命令を遂行する時間がやってきただけ。ただそれだけの事なのに、何故こんなに泣きたくなってしまうのか。それは、自分の思いが未来永劫報われることがないと分かっているせいに違いないのだ。クロコダイルの使用人をすることになったあの時に、キッパリと棄ててしまえば良かった想いをズルズルと引き摺ってきたことへの罰



「………タオルよし、ガウンよし、スリッパよぉし………」



泣いて後悔していても仕事は終わらせれない。久方ぶりに見た自分の涙にいつまでも構っている場合ではない。
もう半刻もすれば、クロコダイルの入浴時間が来る。先に浴室に入って中を綺麗にして、ボディソープ等の容器の中身を確認して、浴槽の汚れを落とし、タオルを用意しておく。我ながら今日は手早く仕事が終わった。だがそれは、今日のクロコダイルの湯上りに課せられる仕事のせいで心が逸っているからじゃないのか、と疑った。このやろう…自分この野郎…!とナマエは自分自身に文句を垂れながら、洗い場に備え付けられていた椅子に腰掛けて主その人がやってくるのをひた待った。やがて静かに開かれたドア。入室してきたのは、コートを脱いで部屋着になっていたクロコダイル。気のせいではなく、顔がやつれていた



「……ん…」
「…あ、クロコダイル 準備は終了しています。湯も沸かしてますので、お好きな時にどうぞ」



お疲れだからと気を遣って、先ほどまでの昂ぶりを抑えなるべく穏やかな声音で声をかけた。受け渡される衣服だって冷静に受け取れたし、意識もしないで済んだ。ナマエが想定していたよりも随分いつも通りに事が進んでいる。少し残念だと一瞬でも思った自分は殺された方がいいその後すぐに生き返れるなら


最近のクロコダイルが、カジノ経営とは違う仕事をしているのは知っている。様々な人物がクロコダイルの元を訪問しているのも知っている。危ない内容なんだろうな、と言う認識しか持っていないが、その諸々のせいで疲弊している主人を心配しないわけがない。
クロコダイルの顔を覗き込みながら、ナマエはある提案をする



「……クロコダイル お疲れなんでしたら、浴槽に浸かられてはいかがですか?」
「…なに?」
「普段は浸かられてないんですよね?オレ、入浴剤も用意してありますので、今日ぐらいは疲れを癒すために入ってもいいんじゃないでしょうか」



ほらと手にして見せたのは、買ってからまだ一度も使われていない高級入浴剤
クロコダイルが入らずともいつも熱々の湯を張っている湯船
シャワーに入ることさえ渋りを見せる砂人間のクロコダイルが、浴槽になぞ浸かる日がくるのか、と思いながらも一応と購入したものだった



ナマエの顔を見て、それから入浴剤を一瞥したクロコダイルは、
最後のシャツを脱ぎかけた手を止め「…クハハハ」と含みのある笑みを浮かべた



「浴槽に浸かる、か……おれにとって危険極まりない事だなァ…」
「…や、やっぱり止めときますか?」
「ほんの些細な接触で、痛みを感じるだろうな」
「う、うおぉ……そうなんですか…」


バスタブと体が擦れ合うだけで痛むのだろうか、と想像してナマエは顔を歪めた。能力者のデメリットも、クロコダイルからすれば手酷い仕打ちだ



「 だが、そうだな」
「は?」



もう一度クハハと笑ったクロコダイルは脱衣もそのままに、
ナマエの手から入浴剤を奪い、ナマエの手首を砂で引っ張りながら迷いない足取りで浴室に入って行く。目を白黒させているのはナマエで、なぜ外で番をする役目の自分が内部にいるのか、と疑問符と冷や汗を出す。「ク、クロコダイル?何故オレまで中に、」と言うナマエの声を無視したクロコダイルは、入浴剤の蓋を取っ払いソレを逆さまにした。流れ落ちてきた液体はドボドボとバスタブの湯の中に落ちていく。明らかに多過ぎる量が入れられて、モワモワと泡が吹き出し始め、仄かに柑橘類の匂いが立ち込めてきた



「ク、ロコダイル?な、何をするつもりで?」
「クハハハ 察してみねぇか、ナマエ」
「…まさか、クロコダイル、その、まさかオレと、まさか」
「 入浴中のおれを、見たかったんだろう?」
「――!!」



正しくその通りだったが、当人から真っ直ぐに言われてしまうと否定よりも羞恥の方が勝ってしまった。すぐに違う!と言えなかったせいで、クロコダイルはほうら見ろと言わんばかりの表情


呆けているとドンっと強く背中を押され、ナマエの体は浴槽に突き落とされた



「!? ―ぶはあっ!!イテェ!顔中の穴に泡が!!」
「…ふん、奇妙な感覚だな。これが泡、か」
「…………!?ク、な!!」
「暴れるな。さっきおれが言ったことを忘れたのか」



"ほんの些細な接触で、痛みを感じるだろうな"
直ぐに思い出したその言葉に、ナマエは文句を飲み込んだ。
シャツを脱いで上半身裸になったクロコダイルが、物珍しそうにしてナマエの横に身体を浸けていたとしても、ここで自分が暴れれば主人の身体に激痛を与えると
しかしそれを頭が理解出来たとしても、分かってくれないのがナマエの弱い理性で、
ナマエの頭はもう限界寸前だった




「ク、クロコダイル!お、オレは、もう、出ますから!」
「なぜだ?見たかったんだろう?」
「…っ!い、いやしかしこれは、どう考えてもおかし…」
「クハハ 否定、しないのか」
「!」



そうだ、否定。 するのを完全に忘れていた。しかも今度は思いもしなかった


いや、もう手遅れだ




「…っクロコダイル…!もうやめて下さい……オレ…!変な気ぃ起こしますから…!」
「ほう…?どんなことを起こしそうになってるんだ、ナマエ?」
「そ、それは… !?ちょっおい、あ、いや、あのクロコダイル!」



ズイっと寄せられた端正な顔に反応が遅れた。綺麗な顔の真ん中に付けられた横一文字の傷がしっかり見えるほどの距離にまで接近されたクロコダイルの顔に、ナマエは顔全てを真っ赤に染める。誰か教えてやれ。顔だけでなく体全体もだと



「…正直に言ってみろナマエ」
「へっ…!?」

「おれのことが、好きなんだろう?」




金色の瞳が、試すように光っている
魅入られてしまえば最後で、誰がこの瞳に逆らえようか



「………っ…!は、い……っ!」



搾り出されたナマエの返事に、クロコダイルはニヤァと笑った



「……クハハハハッ ならイイじゃあねぇかナマエ 今お前の中にある欲をおれに寄越してみな」
「な…!」
「ぜんぶ、貰ってやる」



鉤爪の抜かれた左手が、浴槽の中でナマエの腹に添えられた



ナマエの脳内にあったクロコダイルとの関係だとか、
この後のことだとか、自分は一体どうなるのだろうかとか、
その他色々な考えが、全部吹っ飛んで、


水に浸かっているせいでクロコダイルの力が出せないのをイイことに、
浴槽の縁にクロコダイルを勢いよく押し倒して、痛みに少し悶えた顔をしたクロコダイルの顔に自分のソレを近づけた



「………クロコダイル、逃げたかったら、いま逃げてください」
「……クハハハ 誰が、逃げるか」


近くなったナマエの首に両腕を絡め、クロコダイルはニヤリと笑った


普段はナリを潜めているナマエのそのギラギラとした、クロコダイルへの欲で一杯になった目で見つめられる瞬間を ずっと待っていたのは此方なのだ



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