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今日は日曜日
バイトも学校も休みの今日、倫之助は祥子の買い物に付き合う約束をしていた日だった。


「俺、センス良くないよ」と言ってはいるが、倫くんに選んで貰いたいのと言う祥子の為なら、と服屋デートも苦とは感じない。しかし人混みは別だった。待ち合わせ場所だった公園の周りは、休日を満喫する家族連れや行き交う人々で溢れかえっている。げんなりしそうだ。早く祥子さん来てくれ、と心の中でボヤいていた倫之助の肩を誰かが叩いた。



「祥子さ…」

「やっぱり久賀君だ!休みの日に会うの初めてだよねぇ!」

「……えっと、」


誰…?

突然肩を叩いて親しげに話しかけてきたこの女子のことを倫之助は知らない。向こうは此方を知っているようだが、倫之助にはまるで覚えがない。


「こんなところで何やってるの?誰かと待ち合わせ?もしかして矢野とか斉藤達ととか?」


あの悪友二人の名前も知っているとは。もしかして同じクラスの女子か?と勘繰ってみるが、基本的に人の名前を覚えるのが苦手な倫之助は、それでも目の前の女子に見覚えはない。

尚も女子は喋り続ける。その勢いに尻込みしそうだった。


「あたしもこれから友達と映画見に行ってショッピングモールでお買い物なんだけど、久賀君はどこに行くの?」

「……服を買いに」

「へぇ!いがーい!久賀君って服とかに頓着なさそうに見えたからさぁ!」



けっして自分用のではないのだが…………あ。


「……倫くん、お待たせ」

「祥子さん…」

「えっ? あ、え、もしかして、久賀君の彼女さん!?」



祥子は待ち合わせの時間通りにやって来て、露骨に今の今まで勢い良く喋っていた女子を笑顔で睨んでいる。

口元が見えない分、目に力を入れて全力で"笑っていない"。
倫之助は あーあ と言いそうになりながらも口を閉ざして祥子に任せることにした。


何かを言いたくて堪らない様子をしているのだ、祥子が。



「…貴女、倫くんのクラスメイトさん?」

「あっはい!そ、そうです!」

「そうなの。 へぇ、それだけなんだね」

「え…?」


「わたし、今とても怒ってるから、もう何処かに行ってもらえる?」



「ご…ごめんなさい!お、お邪魔して…」

「そうね、邪魔。倫くんと喋らないで。倫くんはずっと昔からわたしのものなの。ね?」

「ひ…!は、はいぃ!」



可哀想に。名も思い出せぬ女子は、祥子に睨まれて涙目になりながら去って行った。


「……口、見せちゃえば良かったかな」


なんてね。
マスクとマフラーで口元をオーバーに覆っている祥子は、冗談だよと言うが本気でしようとしたんだろう。


倫之助の学校生活に影響が無ければ、己の口を見せて脅かしていた、と。



「…俺は、祥子さんがやりたいようにやればいいと思う」

「……倫くん?」

「でも、祥子さんの素顔を俺以外の人間に易々と見せるのは、」


駄目だと思う。



「…ふふふ。倫くんもヤキモチ、妬いてくれるんだ」

「そりゃ、俺だって」

「ふふ かーわい、りーんくんっ」



飛びつくように倫之助の左腕に両腕を絡めた祥子は「じゃ、早く服見に行こ」と声をかけた。うん、と頷きながら、倫之助は安堵する。

良かった、機嫌治してくれて。

これからデートだと言うのに、恋人の機嫌が悪いんでは良くないことだから。


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