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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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※名字は「木曽崎(きそざき)」で固定
※両方の名前変換を使用しています


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:ふう‐ふ【夫婦】
婚姻関係にある男女の一組。夫と妻。めおと。「似た者―」



これが世間一般で言うところの「夫婦」という単語の意味になるのだろう。

だけど俺、ナマエにとって"夫婦"とは、

『人間の女性と、女性型のロボとが契りを交わし合って成立した二人組みの関係』

のことを言うのだと思って14年間ずっと生きて来た。
今でもあまり一般的に使われている「夫婦」の意味の方にピンと来てない。
価値観の相違があると理解しても、簡単に順応することは出来ないんだ。

何故なら俺の日常には今も その二人の姿がついて回っているからだ。







『ナマエ 朝だよ起きて』
「……うー…ん…」
『朝の定期スキャン完了。バイタル値-安定、バイオリズム+良好、血流の流れも良し! さあほら、起きなさい!』

冷たい手のひらが俺の頭を撫でていた。 ああ、母さん。

「………はよー」
『はいおはようナマエ さ、学校がっこう!』

――口の中のケーブルが丸見えになるくらいニッコリと微笑んで、ナノマシンで構成されている超高性能パーツに身を包んだ"母さん"が、俺の背中を押して急き立てる。"母さん"の手のひらはいつも温度がない。冷たくて、朝の目覚めにはアラームより効果的だ。
キョロキョロと動いている緑色の眼が、俺の体の調子をまだ調べている。やりすぎだ、ってくらい、"母さん"は俺の毎朝のバイタルチェックをするんだ。もう、慣れた。


『ナマエ、そろそろ中学に入ってから初めての参観日があるでしょう?』
「ゲッ!な、なんで知ってんだよ!あえて伝えなかったのに…」
『ふふ、私の情報網を舐めないでちょうだいね。張り巡らされたネットの情報にホイホイ引っかかったんだから』
「……来なくていいからな」
『何を言ってるの!もちろんナマエと一緒に見に行くからね!』


"ナマエ" と一緒に

俄然テンションの上がっている"母さん" これはもう止められないだろう。たぶん、バリケードを敷いたとしても、ミサイルを多少使ってでも強行突破するような勢いだ。



「―――あら、おそようさんナマエ」
「……おはよー母さん」

キッチンで、朝食を作っていたエプロン姿の"母さん"が声をかけてくる。

『ね、ナマエ 今度のナマエの参観日、何着ていく?』

用意されていた朝食の皿をテーブルに並べながら"母さん"が言う。

「そうね、春に買ったスカートでも履いて行っちゃおうかしら!」
『ああ、いいねそれ!ナマエは何着ても可愛いから参っちゃうわ』
「エソルこそ、そろそろ新しいパーツ交換したいんじゃない?今の姿も素敵だけど、今度はもっと軽量化ボディにして、夏に向けて動きやすい身体にしちゃってさぁ!」
『わぁ、ほんとに!?楽しみ〜!今のグレードでも動きやすいんだけど、毎日のメンテナンスが少し面倒だったから手入れしやすいモノにしたいなぁ』



――皆まで言うまいが、 これが俺の、"日常的風景"なんです。


"母さん"、こと木曽崎ナマエ 35歳 人間。趣味は料理、ツーリング、プロレス観戦。
好きなタイプ『清潔感のある眼が可愛い女ロボット』
長い髪の毛をポニーテールで纏めたいつも豪快な"母さん"。衰えるのが嫌で毎日のボディ磨きを欠かしていない。

そして"母さん"、こと木曽崎エソルリア-AX03 製造年月日不明 女性型ロボット。趣味、ガーデニング、天体観測、読書。
好きなタイプ『気が強くてリードしてくれる素敵な人間の女性』
女性型らしくピンクと白色を基調とした細身のロボット。"母さん"をさらに『メロメロ』にさせるためのメンテナンスを欠かしてない。


結婚生活めでたく15周年、らしい。なのに今でも万年新婚夫婦みたいなやり取りばっかりしてるんだ。
ともすれば息子がいる前でもお構い無しにちゅっちゅしてたりすることも……ああほら今もしてる。朝食を食べるのに夢中になって会話を聞いてなかったけど、キスする必要があった会話をしてたのかは定かじゃない。ラブラブな夫婦仲はいいことなんだろうが、一応こちらもお年頃な年齢だと言うのに、その辺の配慮がまったくされていない感じだ。二人の寝室に入ったことはないけど、今でもダブルベッドに一緒に寝てるってのは本当なのかも知れない。絶対入らんけどな。絶対に。


「……なー二人とも、本当に参観日来るつもり?」
「え、当たり前でしょうが」
『私とナマエの息子の晴れ舞台だもの!私の内臓メモリに録画して、後でフルHDでブルーレイに焼くからね!』
「やめて!!たかが参観日だろ!!運動会じゃあるまいし!!」

「きゃー息子が怒ったわ、こわーい」
『これが思春期の人間に訪れるっていう反抗期?興味深いね〜データ取りたーい』

「……………行って来ます」

「いってらっしゃい」
『行っておいで〜ナマエ〜』








うちの家族は、中学のクラスメートに言わせると「おかしい」んだそうだ。

大体言われるのが「色々ツッコミたいんだけどまず言わせて、なんで女同士で?なんでロボットと人間が?お前どうやって生まれたの?」なんだけど、

そんなもん息子の俺が知るわけないだろ。
二人の内のどっちが出産したのかなんて聞いたことないけど、俺は一応人間の姿をしてるから"母さん"が産んでくれたんだと思ってるけど。

どうして女同士で? え、むしろどうしてそこに疑問持つわけ?同性同士ってなんか変なのか? ちょ、おい、なんで後ずさるんだよワケ分かんねぇ。

なんでロボットと人間が?
それこそ質問の意味不明。何が駄目なんだ?こっちが駄目な理由訊きたいくらいだ。


どうして人間とロボットが夫婦だと おかしいんだよ?
うちの母さんと母さん、めっちゃラブラブなんだけど。



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