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「ディル」

名前を呼んでくれた声がひどく優しさに満ち溢れていて、私は真継がとても優しい男の子だと言うことを認識した。
メモリの中で消去したい思いに駆られるほど、リッチガルド家で過ごした日々は地獄だった。
しかし、地獄、と言うのならば今真継がいて、私がいるこの下層部も中々のものだろう。
人間、建物、全てが排他的であり、人々に生気はない。
データとして戦争が齎している貧困の有様はインプットされているが、実際に私自身の目で確認してみるとその悲惨さが機械である私の心臓部にも突き刺さるようだ。


真継は、幼い頃からずっとここで暮らしてきたのか。


それを思うと、私よりも随分と小さなその体にどれ程の苦労を染み付けてきたのだろうと辛くなる。
真継は私を助けてくれた。きっとこれから先も、真継は私を何かしらの形で助けてくれるだろう。

私も、真継を助けられる存在になりたい。
恩返しだなんて、そんな大層なものが私に出来るとは思わない。
だがこれより先の未来に於いて、真継に降りかからんとする災厄から、私は身を呈して真継を護りたいと思う。


曲がりなりにもロボットである身だ。人間であり、子どもでもある真継よりかは何倍も頑丈に造られている。
内部構造に組み込まれている駆動器官が熱を上げた。
私は…ディルルドは、新たな使命に燃えているのだ。



――真継 君の傍に、私をいさせてくれないか。


可能ならば「うん」と言って欲しい。
機械の私が救われた想いをすることに、何の躊躇いもないかのように、うん、とだけ。





















≪ま、真継!! 助けてくれ!≫

「だーっもう!川魚一匹も獲れないようじゃやってけないぞディル! もう川底にひっくり返っても助けてやらないからなー!」

≪そ、そんな!≫



生活排水によって汚染されている川に機体を突っ込んで川魚を捕獲する――これ程までに困難なミッションが、かつてあっただろうか!




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