「だから敬語使わなくていーんだって!」
≪し、しかし真継は私の恩人で、≫
「これ以上敬語使ったら、どっか他所に行ってもらうからな!」
≪うっ!そ、それは嫌です真継ィ!≫
ディルルドはここに住むことになった。いや、住むって言うよりかはぼくの家に"置く"と言うか…。とにかく、行く宛ても帰る場所もないディルルドを放り出すのにも忍びなくて、話題性はともかく好奇の目で見られること覚悟の上でディルルドの面倒を看ることになった。
それに、良くも悪くも、下層部に住んでいる人間は他人に興味がない。
興味を抱こうにも、興味を"抱き続ける"気力がない人ばっかりなんだ。
他人に関心を行かすぐらいなら、今日のご飯を調達する。
だからディルルドのことも、たぶん話題に上がるのは四十九日が限界で、たぶん大丈夫だろって思ってるんだけど…。
とにかく、目下重要なことはディルルド本人のことだけで
「ぼくみたいな浮浪児に敬語なんて使われちゃむず痒くてやんなるの!」
≪わ、分かりました。努力してみま……してみ、る……ます≫
「…変な言葉になってるよ」
ロボットにもやっぱり難しいことってあるんだ、可笑しいの。
「ディルルドって何をエネルギーにしてるの?電気?」
≪内蔵している自己発電機能でエネルギーを製造していま……しているが、太陽光でも代用が可能で……だ≫
「ふーん よかった。電気とかココ通ってないからさー」
ペットのご飯事情を考えるようなレベルの話じゃないけど、要するに自力でどうにかできるってことなら大助かりだ。
その点はディルルドもぼくに頼る気はないみたいで≪君に負担はかけないよ、真継≫と言ってくる。敬語を使わないのに慣れたみたいだった。
そこで、ある事が気になった。
「…ディルルドって、呼ぶの難しいな」
長さはそうでもないけど、語感的に難しい。
ディルルドはぼくの呟きに真面目に謝って来るけど、わざわざ謝ってもらうほどのことでもないのに
「"ディル"って呼んでもいい?」
≪…! も、勿論だ真継≫
「うん。じゃあ、ディル」
≪……なんだろうか。機体名で呼ばれたことは何度もあるが、個体名を呼ばれたことはなかったから、擬似感覚器がムズムズするな≫
ディルルドは嬉しげに笑ったけど、そんなのぼくだって同じだ。
誰かの名前を呼ぶ。これこそ、本当に、いつぶりになるのかな