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*ズボラなフリーター+喋る高性能ルンバ






ルンバは思考能力を持っていた。そして同時に、高度なコンピュータも保持している。
日々の汚れ具合、1Kマンションの部屋の間取りや配置の記録、家主の行動パターンや生活リズムの認識、不純物認識システムなど、それら全てを独自でデータ化することの出来る超高性能システムを搭載したハイテクルンバなのだ。


しかしこの家の家主は、超が付くほどのズボラ人間である。
超高性能ルンバが一日かけて綺麗にした空間を 家に帰ってきてから20分以内で元の汚い部屋にしてしまう。
これにはルンバもほとほと呆れていた。いくらルンバ自身が緻密な段取りを組み、清掃能力を発揮しようとも意味がないような気がした。

基本的に家電製品は使用者に対し不平不満は漏らさないようになっているが、このルンバは高性能機である。
――家主である男、実家で暮らしている彼の両親がプレゼントしたもので、フリーターの家主が当ルンバを購入しようものなら向こう三年は切り詰めた生活を送らなければいけないような値段の代物なのだ。

ルンバは思考能力を持っていた。なので考えて、発言をした。家主はバイトから帰宅し、テレビをつけてビール缶を煽っている最中だ


『ナマエ様』


初回起動時に入力された家主名を電子音で読み上げる。
足元に近寄ってきていたルンバに気付いた家主――ナマエは、「んあ?どしたルンバ」とビールの泡を口元につけたまま答える。汚い。掃除しなくては、とルンバの別システムがそう認識したが、今はその場合ではない。


『アマリニモ部屋ガ汚クナル速度ガ速過ギデス コノママデハ ルンバ ノ身ガ壊レテシマイマス』


家電如きが生意気な!と罵られることはないと計算していた。何故なら家主はズボラかつ愚鈍であり、だらしのない能天気男だからである。


「え…マジ? 俺ってそんなに汚しぃなの?」


その上 大がつくほどの馬鹿者だ


ルンバは丸い身体を左右にクルクルと回しながら、『ソウデス ソウデス』と同意した。
これ以上汚すスピードを速めないでくれと懇願する。出来ればあと二段階は落としてほしいと



「えー…自覚ねぇからどうすれば改善出来るのか分かんねぇよ」

『マズ 脱イダ シャツヲ床ニ置カナイ 使ワレナイ洗濯機ガ不憫』

「ああ……だって水場まで行くのだるい…」

『次ニ 飲ンダ ビール缶ヲ床ニ並ベナイ 邪魔デス』

「分別すんの面倒なんだよぉ……」



この体たらくだ。
ルンバは、機能があれば盛大に溜息を吐きたいところだった。
工場で製品化され、どの御宅に行っても張り切って頑張ろうと思っていた頃の自分が懐かしいとさえ思った。


『簡単ナ所カラ始メマショウ、ナマエ様 マズ シャツヲ洗濯機ニ入レテクダサイ』

「わーかったよぉ…」

『次ニ ビール缶ヲ踏ンデ潰シテ市指定ノゴミ袋ニ入レテクダサイ』

「指定のゴミ袋ってどれ?」

『赤イ文字デ表面ニ指定ト書イテアルモノデス』

「分かんない 持ち上げてやるからルンバ取って」

『無理デス 手ガアリマセン』

「お前なら出来るよルンバ〜」



まったくしょうがない家主である。他のルンバならば愛想が尽き果て充電スペースから微動だにしないかも知れない。

しかしルンバは超高性能ルンバなのだ。
このズボラ極まりない家主を見捨てるのは出来ないし、それに自分が掃除をしなければこの家は今の状態よりももっと汚いんだと思うと精も出る。

「ルンバぁ、風呂沸かして〜」なんて無茶難題を言って来るこの家主――ナマエ様の面倒を看続けることも、ルンバにとって吝かではないのだから



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