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*青年革命家+買われた狼一族の長







私の手を拘束していた鋼鉄の手錠が外される時が来ることを想像していなかった。

私を繋ぎ飼いにしていた人身売買屋の店主は、「出ろ」と短く言って顎をしゃくる。その喉元に牙でも立ててやろうかとも思ったが、それよりも外に出てもいいと言われたことに気が行って、言われるままに建物の外に足を踏み出した。

久方ぶりに浴びる太陽の光が、容赦なく人狼の目を突き刺してくる。
眩しさに目を細めながらも、私は目の前に立っていた人物に気が付いた。
身長の高い、細い男がこちらを見て笑っている。
「こんにちは」
言われたその一言に反応できなかった。店主が私の背中を強く叩く。
「なにボサっとしてやがる。その人が今日からお前の主人になるんだぞ」
主人? ああそうか、購入者のことか。改めて目の前の人を見る。


人間の男で、普通の、どこにでもいるような町民の格好をしている。しかし男から香ってくる匂いは、この国のそれではなくどこか遠い異国の地を思わせるような香りがした。


「じゃ、まいどあり」店主はぶっきら棒にそれだけ伝え、代金を受け取った後の客には興味ないと言わんばかりに店内へ戻っていった。
男はそれに気分を害した様子もなく、「よろしくな」と言う。私は猜疑心に包まれた目で男を見つめ返した。



「……何故、私を買った」

「改革の足がかりになってもらおうと思ってな」

「なに…?」



改革? その地味な風体で、改革者なのか?

私の視線の意図に気が付いた男は「とにかく、歩きながらお互いのことを話そうか」そう言って私の手を引いた。ひどく馴れ馴れしい。本来なら、すぐにでもその手を噛み千切ってやっても良いのだが、とても強い力で手首を掴まれていて、長らく監禁され衰弱した身では満足な抵抗も出来ない。

男は口を開く。私の姿を上から下までジロジロと見た後に「本当に人狼なんだな」と言った



「………どう言う意味だ」

「いや、あの店の店主から『人狼も取り揃えてる』と言われた時は半信半疑だったんだ。狼…人狼の一族ってのは、人間なんかよりも遥かに力のある生き物だろう?そんな狼が、大人しく人間に捕まって売り物にされてるとは思わなくてな」

「なんだ、遠回しに私を侮辱しているのか人間め」

「そんなつもりはない。でも、君が捕まってしまった経緯なんかは興味があるな」


トボけた面だ。本来の力を取り戻せば、一瞬で殺せそうなほど弱々しい人間

しかし、語るだけなら良いかと考える。思い返せば腸が煮えくり返りそうなほど腹立たしい出来事だが


「……人質に取られていたんだ。妹と、弟を」

「………そうか」

「あの子たちと引き換えだった。一族の長であった私を捕まえる方がより有益であると店の人間は判断したのだろう」

「弟と妹は、救えたのか?」

「いいや、私の自由を奪った後に同じく捕らえられた。私よりも先に、どこかの人間に二人とも買われ、今はどこにいるのかも、生死すらも分からない」

「………」


きっと、もう生きてはいないだろう。あの子達は小さく、幼かった。護ってやれなかったことよりも、人間の甘言を信じた己の不出来が嘆かわしい。最期の姿を思い浮かべるだけで、全身の毛が逆立ってしまいそうだ。



「――やはり、この国は駄目だな」

「……なに?」

「言っただろ? 俺は革命者だ。海を一つ越えた国の出身だが、この国の治安の悪さ、悪政の噂なんかはよく知っている。俺はこの国を変える為に此処へ来たんだ」

「…なに、を…」


男の目と、口と、手に力が込められた。
 改革? 何を莫迦なことを。
この国は、もう手遅れなのだ。
かつては人と、獣と、その境目にいる獣人とが平等に生きていられたが、それはもう既に廃れた国色なんだ。人間は、自分たちだけ力を付けた。あらゆる手段で、「人間以外」のものを迫害する。広いこの国を統べるのは人間だけだと宣い、我らを傷つけるのだ。


「それを、お前のような人間如きが成せると思っているのか」

「俺だけじゃ無理だな。 その為に君を買ったんだ」

「…!」


「獣人の中でも特に強い力を持つ狼一族の長である君が味方についてくれるなら、俺は百人力なんだ。―― 一緒にこの国を変えてみないか?」



――絵空事だ

――革命だなんて、そんなものが大成した例は過去にはない。無謀だ、無謀すぎる

――それに、何故私がそれに付き合わねばならない。 人間なんか、





「な、一緒に生きていこう 君よ」





――嗚呼 なんと眩しい目をしているのだろう これだから人間は困る



「……私が、共に行くのだ」

「!」

「…途中で諦めたりなんてしてみろ その喉を食いちぎってやるからな」

「はは、よく覚えておこう!」



男が私の手を放し、向き直る。初見では、頼りのないひ弱な男に思えたのだが、この数分間の間で随分と印象を変えられたような気がする。


「そう言えば、まだお互い名も知らなかったなぁ。 俺はナマエ 君は?」

「………」

「名前は何と言うんだ?」


「……レガリア」







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