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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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*勘違いされてる男の娘(?)+勘違いしてるロボット(おかん)






≪女性が足を開いたまま座らない!≫

「………いや、俺おと≪女性なのに、"俺"なんて言うものじゃありませんよ!≫

「………………はい」



鋼鉄の身体に柔らかな布質の割烹着と三角巾をつけたアロイスからのいつもの説教に、ナマエは苦笑いで答えるしかない。


アロイスは家政婦派遣サービス会社で雇ったロボットで、今日でちょうど一週間目の付き合いになる。
ロボットらしい端整な顔立ちとは裏腹に、仕事の丁寧さは目を見張るものがあって、なかなかの働き者だ。

頼んだ初日には、一体どんなタイプの方が来てくれるんだろうなー、優しい性格ならいいなー、なんて仄かな期待を寄せていたのだけれど、アロイスはナマエの期待を思わぬ形で裏切った。






≪あなたが今回のマスターの方ですね?≫

「そ、そうです!」

≪家庭用ロボット・アロイスと申します。本日よりマスターの身の回りのお世話をさせて頂きます。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします! 一人暮らしで何かと不便だったんで、ほんと助かりますよ」

≪はい、必ずお力になりますよ。……それにしましても≫

「? なにか?」

≪いえ 今まで、女性の一人生活はさぞかし不安だったのではと心配してしまいまして≫

「は……」


――はい?




ジョークなのかと思ったのだ。
勤務上、雇い主との関係は円滑かつ良好に進めなければいけないから、冗談を言って打ち解けようと考えての言葉だと、ナマエは考えたのにアロイスの方はそれは冗談でもジョークでも何でもなく、本当にナマエを「女性」と見間違えての言葉だった。


ナマエは男だ。 しかし、生粋の男、と言うには憚られてしまう要素があった。


顔の造形が美人だった母親の方によく似たせいで、小さい頃からずっと女顔であった。
コンプレックス、とまでは行かなかったが、学校の同級生や会社の同僚から「綺麗な顔だな」と囃されるたびに気恥ずかしさに襲われていた。
それに声も通常の男声よりも若干高く、日常の声でさえ"少し低めの女声"かと思われるという始末
度々、初見で女性と見間違われることも過去にはあったことだが、
ロボットにまで間違われてしまったことはかつて一度もない。


ナマエはこうして、アロイスにずっと女性であると勘違いされ続けている。


"訂正"は何度も試みた。
だがアロイスはなかなかに手強い奴で、何故か"訂正"の部分だけをいつも聞き入れてくれないのだ。



≪今日は気温が5度以下にまで下がる予報が出ていますので、外出の際にはコートを着用して行ってくださいね≫

「………はい」

≪あとそれと、本日の夕食の献立は如何いたしましょうか。ナマエ様のご要望がお有でしたら私もこの後外出し、入用の食材を購入して来ますが≫

「えと……じゃあ、グラタン、とか頼めますか」

≪良いですねグラタン! 寒い日にはピッタリの料理ですね≫

「……せやな」



にこやかに、楽しそうに笑うアロイスと共に暮らし始めてもう一週間、早一週間

そろそろ強引にでも、ナマエは"男"であることをアロイスに知らしめなければならないだろう。
いや、知らしめるべきだ。今後も上手く、円滑にこのおかん…ではなくロボットと付き合って行く為にも




「………俺が仕事から帰ったら見てろよアロイス……!」



≪――!? 何でしょう、今なにか…悪寒のようなものを感じましたが…≫




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