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*博打好き貧乏とATM





――この人間、また来た。


都市郊外に位置する銀行で稼動中の現金自動預け払い機――ATMは、ATM内に備え付けられている監視カメラを通して外部の様子を探っているが、
近頃カメラによく映る三十から四十代前後の男のことを記録していた。

と言うのも、その男はここ最近、毎日のようにこの銀行へ足を運んでいるのだ。
通常、普通の人間が日に何度も銀行のATMを利用することは、まずない。
一般人の銀行利用回数は週に1.5回程度とされている。

それなのにその人間の男は、ほぼ毎日、平均五時間おきにこのATMを利用しに来る。
防犯システムは決して作動することはないが、提供しているサービスの範疇を超えない程度に、ATMはこの男の行動を観測していた。怪しい、のである。
機械であるATMが、そう感じてしまう程度に。


そして男は今日もまた、利用者の誰もいない時間帯を狙ったようにATMに足を運んだ。
自動ドアを通ってきたその姿はいつものように、薄汚れたブルゾンに、ボロボロに敗れているスニーカー、何日も風呂に入っていないような不衛生そうな顔を俯かせ、ブツブツと言葉を呟いている。



「くそ…賭け麻雀なんか……、…あいつ、絶対イカサマしてんだろ……」


音声が拾えた限りでは、どうやら男は博打好きならしい。
節くれだった指で胸元のポケットからこれまた古い財布を取り出して、カードを手に取りATMのタッチパネルを叩く。
男が選ぶのは、いつだって『引き出し』のみ。


「……今度は十倍ふっかけて、元手を……」


パネルを操作しながらも男は呪詛のような愚痴を吐き続けている。
内容はATMには理解できかねたが、どんどん口座の残高が少なくなっていく男の様子を見て、
どうか、数少ないこのATMの利用者である人間が誤った道を踏み外してしまわぬようにと言う希望を抱くしかない


『――ご利用ありがとうございました お忘れ物の無いようにご注意ください』


ATMが発した電子音声に満足に耳を傾けないまま、男はさっさと出て行ってしまった。








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