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≪現在時刻07:05 予定よりも5分の遅れ 起きられよ≫
「……、…」
≪起床確認≫


…うん、やっぱり夢じゃない。 夜に何度もオヤジとど突き合ったり、勉強机とかベッド枕元に「夢ではない」って書いた紙を貼ったり、寝る前に何回も何回も窓から見える倉庫で保管されている姿を見て確認し続けたけど、エルナというロボットがいることは揺るがない事実だった。


「……おはようエルナ……」
≪起床確認は完了している≫
「 おはようエルナぁ!!!」
≪……起床確認は完了している。 ヨシトシ技術者からの通信を知らせる。"早く起きて来い"≫
「おう分かったエルナ!!!」


起きたら部屋の窓から巨大ロボットが起こしに来てくれるってなんだよこのドキドキはー!


「おはようおはよう親父おはよう!」
「気持ち悪ぃぐらいのテンションだが理由は分かるぞ息子よおはよう!」
「親父のその笑顔もくそ気持ち悪いぜおはよう!」
「お前もなおはよう!」


不毛なテンションのぶつけ合いに終止符を打ったのは部屋の外から通信機器越しに聞こえて来たエルナの声だった。

≪現在時刻07:11≫
「おおっとそうだったな。 ナマエ」
「ふぁんだほ」
「パン食べながらでいいから聞け。 遂に俺たちのERN-aが完成したわけだが、」
「うん、やばい」
「分かってる。 でもお前も知っての通り、まだERN-aは未完成な部分が多い」


"未完成"
その言葉が親父の口から出た時、俺は無意識の内に外の倉庫で黙したまま待機しているエルナを見た。俺たちの会話は店のどの場所にいても通信機器が拾ってスピーカーが流してしまう。
未完成だと言われたエルナは、当然のように無反応だ。


「俺はなぁ、挑戦してぇんだよ」
「…と、言うと」

「人間が作り出す人工知能にはどうしても人間の限界が現れてしまうと俺は思う。"人間"が作り出すものからは"人間以上"のものは生まれない。ましてやそれをロボットの知能として与えようとしてるんだから尚更だ」


親父は常日頃から言っていた。「ロボットに"人間らしい部分"を与えてやりたい」と。
それを実現させるには、人工知能……AIの存在は欠かせない。如何にしてそれを親父の言う"理想的な現実"に近づけられるかが、俺たち親子の長年の課題だった。


「…親父の言うような人工知能の開発は、出来なかったもんな」
「ああ…だが俺は別の方向性を見出した」
「別の?」
「既に人工知能を搭載したERN-aがその人工知能を持った上で、俺たち人間と交流を持てばそれをERN-aのAIが学習をして、俺たちの目標だった"人間以上"のモノに仕上がるとは思わないか?」


つまり 地面に種を植えておいたから、後は雨が水をやってくれるのを待とう、ってことか!


「いや、ちょっと違うが」
「違うのかよ!」
「でもまあ大体はそう言うこった。俺たち人間のやれるべきことはやった、後はロボットの学習能力に賭けてみようぜってことだ!」


俺たち親子を棄てた女の影を追って親父がロボットつくりに励んでいるわけでないことは気付いていたけど、よもやそんな思惑があったことまでは知らなかった。


「分かったぜ、要するにエルナと交流をして、エルナに"人間らしさ"を覚えさせようってことか!」
「そうだ!」
「いいじゃんそれ!面白そうだし、やってみたい!親父の仮定が当たるか外れるかってことを証明すればいいんだな! 誰かに!」
「ああ、誰かに だ!」


昨今のロボット業界に喧嘩を売っているわけではない。こんな片田舎の弱小金物店にそんな力はないけど、巨大ロボットならいる。
人工知能と共生をして、更なる技術の進歩を願うって言うことか。
すごくワクワクする話だ。本人には絶対に言いたくないけど、さすが俺の親父 俺以上に人生謳歌してる。遅れずについて行かなくては!



「何はともあれ必要なことは、エルナとの会話だな! おーいエルナぁ!」
≪お呼びか≫


お前の成長を楽しみにしている、と言った旨を話し合っていた俺と親父の会話を どう思った? なんて問いはまだまだエルナには厳しいだろうから


「お前は俺の後に生まれたわけだから、つまり俺がエルナの兄貴ってことだ!」
「…それはどうな、」
≪……"兄貴"≫
「そうだ! だから俺のことは兄ちゃんか兄さんか兄貴って、呼んでくれ!」
≪了解 これより以後、ナマエに対する呼名を"ニイチャンカニイサンカアニキ"に変更す…≫
「あああ違う!そうじゃねぇ!なしなしなし!今のなし!」
≪キャンセル承認≫



やはりこのロボット、一筋縄ではいかないようだ




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