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俺の母親に当たる女性は、アメリカ人だったらしい。残念なことに俺はあんまり母親の血を受け継げなくて、俗に言われる"ハーフ"のような見た目では全くない。純日本人顔だった。親父の遺伝子どれだけ濃かったんだ。
母親は俺を産んですぐに親父のもとを、日本を離れて母国に帰って行ってしまった。所謂"蒸発"って奴だ。
棄てられた親父の方は当時はだいぶ腐っていたらしいけど、俺の親父は息子の俺が言うのも引けるが、かなりの"変わり者"で。

『人恋しいからロボット造る』

家は代々金物屋、中学、高校、大学でもロボット工学を専攻していた親父は考え方もまたロボットに寄っていた。
ようやく好きになれた生身の女性に置いてかれたことが余程辛かったのか、その反動で親父の思考はまたも"そちら"寄りになってしまったのだ。
赤ん坊だった俺を背中に背負いながらロボットを作っていた親父
俺はその作業場に響く金属の音を聞き、倉庫に蔓延していたセメント袋の匂いを嗅いで育った。

開発から18年

俺と一緒に文字通り大きくなって行ったロボットは、遂に完成を迎えた。

さながらロボットアニメに出てくる主役機のような外見をした巨大ロボットは、体長およそ4m 総重量3.6t 白をベースカラーに、サブカラーは黒でまとまった機体は上半身から腰にかけて、また腰から足元にかけては広がりを見せるスタンダードな砂時計型 虚弱な印象は全く見られない。親父はフルアーマーに出来なかったと言っていたけど、俺は骨組みが剥き出しになってるところも気に入っている。



「見たかァナマエー!!」

「おうっ超見てるぜ親父!!」

「どうよどうよこの格好良さ!!我ながら良い仕事したなぁ!」

「デザイン担当のカワサキさんにお礼しねぇと!」


工場に親父と二人並んで、心行くまで完成したロボットの姿を見上げる。カッコいい。超イカしてる。二人してそんな感想しか出なかったけど、これ以上の言葉は要らない気がした。
多くの会社や企業が挙って力を入れるロボット業界にも負けてないくらいの出来栄えじゃんか!



「視覚センサー、運動センサー、集音機能、熱感知システム、可変機能のついた背面構造、自然な収縮を実現した各関節、アクチュエータ……詰め込める物は粗方詰めこんどいたぜ!」

「だから見た目の大きさの割りに総重量増えてんだろ」

「重い、ってのはロマンだろ!こいつが歩いた時に起こる振動を体験するのが今から楽しみじゃねーか」

「! やっぱこいつ動くんだな!?」


俺の驚きと疑問は親父には"当たり前"だったらしい。「何のために脚部付けて平衡バランサーを備え付けたと思ってんだ!」 親父はおもむろに、工場の床に腰掛けるように座っていたロボットの目の前に立ち、スゥと息を吸い込み、大きな声を張り上げる。


「……起きろ!"エルナ"!!」

「…エルナぁ? って、う、うわわわぁ!!」


言われてた通りのとんでもない振動がして、座っていたロボットが立ち上がる。
親父の声が合図だったらしく、システムを起動する時の『ブゥン』て音が聞こえて、目元に青白い光が灯ったのが見えて、俺も親父も興奮は最高潮だ。


「まだ驚くんじゃねーぞナマエー!!"エルナ"の凄いところはここからだ!」


威勢良く拳を振り上げた親父の後に言葉を続けたのは俺じゃない。


≪起動シークエンス確認、音声回路異常なし、発話モード可能≫



「…、…ちゃんと喋ったじゃんか親父ィー!!」

「見たか中学高校と散々オレのことをキモプログラマー呼ばわりした奴らめ!!オレはここまで進化したぞざまーみろぉ!!」


親父の過去の遺恨なんかどうでも良くて俺はもう目の前のロボットに釘付けだ。
立ち上がって、言葉を発して、俺たちの反応を窺ってくるその姿に言いようもない興奮 これでまだまだ見てない機能があるなんてもう駄目だ鼻血出そう


「てか親父、さっきから気になってたんだけど、このロボの名前"エルナ"ってんの?」

「おう。正式名称はERN-aっつーんだがまぁ要するにエルナだ」

≪お呼びか≫

「うわっ反応した!! しかしえらいロコツに女性名だけどまさか……」

「お前の母さんの名前だ……」

「やっぱりか!やべぇぞ親父!」

「うるさい!良いんだこれで。初期の段階から決めてたことなんだよ」


まあ俺としては別にどうだっていいんだけど。エルナなんて外国の女性名をこのロボットがどう感じてるかの方が気になる。親父は自律型コミュニケーション機能も搭載したとか言ってたっけ。


「エルナ!」

≪お呼びか≫

「エルナって、良い名前だって思う?」


俺の人生初体験とも言える"ロボットとの会話"だ。どうしようこれ、心臓やばいって。

一瞬の間が空いて、エルナは
≪質問の意図不明 しかし主観的見解を述べるのであれば、返答は"YES"である≫
と答えた。ほら見ろ!とやけに得意げな親父からの肘鉄を食らわされた。


「まだまだ色々言いたいことはあるんだが、一つだけ先に言っておきたいのはなナマエ」

「おう」

「今まで俺とお前の二人、それと従業員の奴らが泊まり込む為にあったようなだだっ広いこのオンボロ店舗に、今日からロボットが一緒に住むようになるってことだぜ…」

「どうしよ親父 俺、目から汗出てきた」

「馬鹿野郎お前、それは…」

≪それは汗腺から分泌された分泌物ではなく、涙腺から分泌され人間の眼球を潤す役割を持つ液体、通称"涙"である≫


色んなことに対して開いた口が塞がらない。
俺と親父の掛け合いに入って来た会話力もそうだけど、どうだこのロボットらしい機械的な喋り方は。
親父の作った自律感覚が発展途上だったとしてもこのクオリティ
内蔵のコンピュータによって、人間との会話をよりスムーズにするにはどうすれば良いのかを高速で演算しているんだ。


「あぁあ楽しみ! なぁ親父!エルナに俺らの情報ってちゃんとインプットされてる?」

「当たり前だろ、訊いてみればいいさ」

「なあエルナ!」

≪お呼びか≫

「俺ら二人の名前を言えるか?」

≪可能 ヨシトシ技術者、そしてその息子のナマエ親子である≫

「…!…!」

「何回聞いてもオレの組み上げたプログラムの素晴らしさに惚れ惚れすんぜ…」







そんなわけで、
俺と親父とエルナの、不思議な生活が始まった。


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