「お父さん、お父さん! この虫さん飼ってもいい!?」
「おー何を捕まえて来たん………だ………」
拝啓 天国の妻よ
息子が変な虫を採集してきました。どうしたらいいでしょうか(待て、待て、待て待て待て待て!!落ち着け、落ち着け俺!今のは見間違いだったかもしれん。息子の隣に立っていたでかいナニカは見間違いだったうんそうだきっとそうだよしもう一回ちゃんと見てみやっぱり何かいるるるるるるる!!!なに!?なんですかそちら様は!虫?いや本当にそれ虫なのか!?二足歩行してるけど!て言うか俺より背ェ高いんだけど!なんなのそれ!!)
「り、理央くん? そ、それは、な、なんて言う虫で……」
「なんかね、おっきいの!」
「見たら分かるね。父さんが訊きたいのはそう言うことじゃなくてねどこで拾っ……捕まえて来たの?」
「えっとね、裏の山に落ちてたの! 強そうだったから、捕まえた!」
確かに強そうだった。息子と一緒に繋がれている手は鋭利に尖っててゴツゴツしている。アレで殴られたら一撃で脳髄噴出してしまうかも知れん。
俺は未だに頭の中がクエスチョンマークで一杯で心臓が早鐘を打つようになっているけど何度も深呼吸して呼吸を整えてみる。整わない。ちょっと待って、本当にそれって何ですか?
「……あ、あのぉ……」
『…………』
「……」
『…』
……喋らない!!
いや、まて落ち着け、そらそうだよなだってこれは一応虫、なんだよなそうだそうだ。喋らないに決まってるよ。
息子が連れてきたその昆虫生物(暫定)はただじっと黙って繋がれている息子の手を見下ろしていた。
改めて見ると息子とは大分身長の差がある。見た目もまるで鎧みたいな皮膚をしていて、
「ねーぇお父さん 飼ってもいいでしょ?ちゃんと自分で世話するからぁー」
「えぇ…っ!?」
確かにこの生物を飼えるぐらいのスペースがうちにはある。
一昨年妻が亡くなってから、生活スペースも増えたのだが、よもやそれをこんな得体の知れないものを飼う為に使うのか…!?
「お父さん!お願い!捕まえたのに逃がしちゃうのも可哀想でしょう!」
息子が更に声を荒げる。「ねえ、インセもぼくと一緒に暮らしたいよねぇ?」…インセ? いつの間にか息子は名前までつけていたらしい。これはもう選択肢なんて残されてないんじゃないか?
すると、生物――インセ、は黙ったまま息子を見下ろしていたかと思うと、スッと膝を折ってしゃがんできた。
息子と視線が合わさる位置にまで顔を持ってくるや否や、こっくりと、頷い、た。
え?今、頷いたわけ?喋れないけど人語は理解出来る生物なのか?なんという……。
「ほらー!!インセもここにいたいって!ねえお父さん、いいでしょう!?」
俺は……
「……ちゃんと、面倒診るんだぞ…?」
「やったぁー!! よろしくねぇインセ!」
『………』
「……どうしてこうなった……」
『………よろしくお願いします』
「シャシャシャシャシャベッター!?」