みじかいの | ナノ
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全ての物事には必ず「先駆者」と呼ばれる存在がいるものだ。
先駆け、とは字面のお利口そうな言葉で、そのモノによっては言うなれば「実験体」「人柱」と言ったところだろう。

凍土、氷海、雪山… 止せばいいのに、人間というものは人体機能の限界を超えた場所に足を運ぼうとする。

大型のモンスターが暴れているために雪崩の危険性があり、直下の村に被害が及ぶからハンターを要請しろ。
氷海にしか棲息していない魚の鱗で作った防具は民間での実用性もあるため調達してほしい。
極寒の土地で生きている生物の生態系を調査したいので捕獲してほしい。

そんな内容のクエストが、ハンター諸氏らの元に日々届いているものと思う。
しかし、幾ら超人的な肉体と精神を兼ね備えたハンターと言えども、人体の活動を問題なく送るためには何はともあれ”体温”が必要なのだ。


ぐだぐだと煩い前置きはやめよう。
人間が活動をするに適さない極寒の土地での行動を可能にするために、かねてよりギルドは耐寒性のある薬物の開発に研究を費やしていた。
――ホットドリンク
現在ではそう呼称されている飲み物が広く普及に至ることになる、もう何年も何十年も昔の話だ。



「試薬第一号、ねぇ…」


チャプンと音を立てて瓶の中を揺らめく薄い赤色の液体を見ながら男は1人ごちる。

ギルド研究所からの通達で、この試薬第一号を服用し、雪山を踏破してほしいとの依頼が舞い降りたのだ。
一研究員に過ぎない男が何故今このような場所にいるのか。男は温暖な気候の山間部にある寂びれた村の生まれで、砂漠や雪山などの極端な気候の土地には慣れていない。この試験の役割を与えられたこと、言ってしまえばそれは不運の一言に尽きる。


「ハンターで試してみればいいだろ…どうして僕が…」


探査機気球から降ろされるその直前まで文句と不平を口にしていたが、今はその声を聞いてくれる者は誰もいない。
男が再びギルドの地を踏むためには、今から数刻間、この試薬第一号ホットドリンクを服用し、ここ雪山で常温時のように行軍が問題なく行えるかを検証しなければならなかった。

男の所在を常に確認するために、背後の空では気球が見守っている。一定のリズムでチカッと探査灯が点滅しているが、男からすれば「早く行け」と促されているようでどうにも気分が悪かった。


フラヒヤ山脈から連なる山間部に設営されているベースキャンプから「1」と数字を割り振られたエリアに移動する。広大な湖が広がる、比較的緑のあるこのフィールドで草を食んでいた小型草食モンスター・ガウシカがジロリと男に目をやって来ているのが見え、男はそそくさと目的の雪山エリアへと足を運んだ。