13話(夕方:総領事館)


総領事館でカレン、卜部、C.C.と再会し、黒の騎士団幹部一同は歓喜に沸いていた。
神楽耶とディートハルトとラクシャータが中華連邦に逃げ延びた話は聞いている。
いつかは合流できるから不安はない。
空だけ安否が不明で、幹部全員の心はずっと晴れなかった。
『本物の幽霊になった』という嘘みたいな話はゼロが真実だと証明した。
情報収集に飛び回ってゼロを助けていることに、幹部一同は少しだけホッとする。
それでも心に暗雲は残ったままだ。
『空の身体は敵の手の内にある』────C.C.の言葉に、彼女の無事を切に願った。

そんな日々の中、朗報が飛び込む。
ゼロの『空が見つかった』の報告に幹部一同騒然とし、玉城が特にうるさかった。
ゼロからカレンに、カレンから幹部に情報は伝わっていく。

彼女はアッシュフォード学園にいて、
全ての記憶を失っていて、
今は枢木スザクが護衛役として常に付きまとっている。
その情報に何人もの幹部が頭を抱えた。

「『大いに戸惑ってしまう事項だが、空は笑顔だ。
それだけは心に留めておいてくれ』」

とゼロに言われた幹部一同の不安はさらに増大した。
玉城は「ホントか!? 本当に笑顔なのかァ!?」と一切信じなかった。
ゼロの手配で学園に潜入していたカレンとC.C.が帰った時は、報告を待ち望むメンバーが談話室に大集合した。
カレンが撮影したデータをプロジェクターにセットし、星刻がスクリーンを用意する。

「カレン、頼む! 早く再生してくれ!!」と玉城は両手を合わせてお願いし、
お茶を2人分持ってきた扇が「玉城落ち着け。カレンは潜入帰りで疲れてるんだから」とたしなめる。
「よくバレなかったな」と杉山が感心し、
「オープンな学校だと扇が話してたぞ」と南が答えた。
C.C.はチーズ君ぬいぐるみを抱えながらお茶を飲む。
「あの子が心から笑えていれば良いが……」と仙波は遠い目をして、
卜部は「そうだな……」と深く同意した。
朝比奈が「記憶を失っているなら、ブリタニアにとって都合が良い刷り込みをしてそうですね」と藤堂に話し、
藤堂は「……もしそうなら、保護はもっと困難になるな」と低い声で返事した。

準備が整い、談話室が暗くなる。
騒がしかった室内は静まり返り、全員がスクリーンに注目した。
カレンは着席し、星刻は壁際に立つ。
千葉は「(星刻のヤツ……共に映像を見るんだな……)」と思った。

スクリーンに映像が映し出される。
ブラックリベリオンの際、学園の施設を徴用して司令部にしたことがある扇達は、緑あふれる学園の景色に苦い顔をした。
飾り付けされた学園内を仮装する生徒が歩き、屋台やアトラクションも多い。
ラッコの着ぐるみの内側・覗き穴から撮影している為、映像はたまにブレたりする。
離れた奥のほうに、無事を願っていた少女の姿が映し出された。
制服を着た空と、同じく制服姿の枢木スザクが並んで歩いている。
玉城がウッと涙ぐむ。

枢木に話しかけている彼女は笑顔で、学生をしている姿は微笑ましい。
安心しきった表情。
親しげで、距離がとても近い。
男性陣が「(近すぎだ……)」と眉間にしわを寄せた。談話室を重い沈黙が支配する。
カレンはゆっくりと距離を縮めていく。
近づいたことで声も聞こえてきた。

「『スザク! あっちも見に行こう!!』」

楽しそうな会話。聞きたかった笑い声。
扇は辛くなってため息をこぼす。
不意に枢木が振り向き、こちらを見た。
まっすぐ視線を向けてくる。
談話室に緊張が走った。

「気づかれたのか!?」と杉山が小さく声を上げ、
「ずっと後を追いかけてたから……。でも大丈夫」とカレンは声を潜めて言った。

枢木は足を止め、それに気づいた空も歩みを止める。
微笑みながら枢木はこちらを軽く指差し、彼女も顔を向けてくれた。

「『かわいいのがいる!!』」

パァッと笑顔が咲き、空は目をきらきら輝かせて歩み寄って来る。

「『なんの動物だろう!
こんにちはー!!』」

彼女が少しだけ屈む。
画面外で分かりづらいが、どうやら握手をしているようだった。

「『スザク!
首のところに貝殻もあるよ!!』」

はしゃいでいる。
彼女の笑顔に、見たかったものをやっと見れた満足感を全員が抱いた。
空が離れ、バイバイと手を振りながら遠ざかる。
彼女を見る枢木の眼差しは優しく穏やかで、彼が空を大切に思っていることが嫌でも伝わってくる。
カレンは二人の後を追わない。
下げたカメラは着ぐるみの内側だけを撮り、小さな嗚咽の音声が聞こえるだけだ。
映像はそこで終わる。
撮影者であるカレンの涙に全員が気付いたが、誰もそこには言及しない。

星刻が談話室の明かりをつける。
胸がいっぱいで話せる気分じゃなくて沈黙する人間が何人もいる中、藤堂は苦渋の顔で腕を組んだ。 

「枢木スザクが護衛役をしていると聞いていたが……」
「家族……みたいな顔でしたね、藤堂さん……」

“ブリタニアの白き死神”の異名が嘘のようだ。

「兄貴みてぇなツラしやがってよー……!」

泣き腫らした目で玉城は舌打ちし、ガタッと席を立つ。

「空のそばで空を守ってようが、空のお兄ちゃんは俺だからな! 俺は認めねぇからな!!」

チクショー!!!!と吐き捨て、玉城はドタバタと談話室を出ていった。
残っている全員が「(玉城が兄は絶対無い)」という顔をした。
 


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