贈りもの | ナノ


▽ 葉巻の煙


 G-5に異動したい。スモーカーは上司である青雉にそう告げた。『だらけきった正義』を掲げる彼はスモーカーの願いを承諾した。この上司ならやってくれる。そう確信はしていたものの、あまりにもあっさりしすぎていて、スモーカーは拍子抜けした。でもこれで、新世界へ行ける。


「貴方の中でどういう心境の変化があったのかは解りませんが、私の仕事が増えたということは理解できました。ただでさえ本部の復興で忙しいというのに」

「…名前か」


 部屋を出たスモーカーの前に現れたのは、優秀と噂される青雉の部下、名前だった。相変わらずのジト目に酷い隈。その手には大量の書類を持っている。いつもより彼女の眉間に深く皺が刻まれているのを見て、この女は煙草や葉巻が苦手だったか、とスモーカーは葉巻を消した。他の奴にはこんなことをしないが、名前は別だ。サボり癖のある上司の肩代わりをする彼女はとても健康には見えないし、何より不憫だ。スモーカーとてそのくらいの良心はあった。


「G-5は海兵の荒くれ者どもの集まり。貴方も似た者かも知れませんが、少なくとも希望して行くんなんて普通じゃありませんね」

「俺は新世界に行きてーんだ」

「麦わらを捕まえる為にですか」


 ご苦労なことですね、と少し皮肉じみているのは仕事を増やした恨みからか。スモーカーもそれに対して罪悪感を感じていない訳ではなかったので、その言葉を甘んじて受け入れる。


「悪かったな」

「別に。書類が1枚だろうが10枚だろうが100枚だろうが、そんなに変わりませんよ」


 100枚は流石に変わるだろう。スモーカーは名前の感性が心配になった。過度の労働で彼女の疲労メーターは壊れてしまっているのかもしれない。

 スモーカーにとって名前はよく分からない奴だった。執務室に篭りがちな彼女に会うことは滅多にないし、今日だって久々の会話だ。実力だって計り知れない。弱いから事務をやっているのだと噂する海兵もいれば、青雉の部下なのだから強いに決まってる、という海兵もいる。部下に欲しいという将校も多く、その筆頭はかの海軍中将ガープだ。戦争では狙撃をしていたらしいし、銃を扱うのだろうが、スモーカーが彼女の実力を見たことはない。
 新世界へ行けば、名前に会うことも今以上に減るだろうし、きっと自分が名前の実力を知ることはないのだろう、とスモーカーは思う。


「まあ、頑張って下さい。たしぎさんにもそう伝えて下さいね」

「ああ」


 青雉の部屋に名前が入ったのを見送って、スモーカーは葉巻に火をつけた。

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