星が消えた日
なぜあの3人があんなギクシャクするようになってしまったのか、私は知らない。
もうすぐ新学期、中2から中3に変わる年度の節目のことだ。私は事故に遭った。歩道を歩いていた私達に、飲酒運転の車が猛スピードで突っ込んできたのだ。
車は大破。運転手は即死。私は内部損傷が激しく起き上がることなど到底無理だった。全身に痛みを感じながら、私の目に映ったのは小3の弟だ。私と対照的に外部損傷が激しいようで、鮮血が流れ出している。意識は辛うじてあるようで姉ちゃん、と掠れた声で私を呼ぶ。
なに。なにがおきたの。どうして。ちが。だめ。やめて。
痛みなど感じなくなって、恐怖や焦りで一杯になる。頭は急速に回転していった。このままでは颯が死んでしまう。唯でさえこの子の血は珍しく、輸血が難しいというのに。これ以上血を流したら。
「……たす、けて………。」
救急車のサイレンの音を遠くに聞きながら、私の視界はブラックアウトした。
私が目を覚ましたのは、あの事故から2週間以上たった頃だった。真っ白な天井に真っ白なベッド。ここが病院であることは一目瞭然だ。とりあえず体を起こそうとしてみるが、ぴくりとも動かない。そのとき、丁度入ってきた看護師が私が起きたことを理解すると、すぐに先生を呼びに行った。
「内部損傷が非常に酷いので、長い間入院することになります。」
「助かったのも奇跡に近いですよ。幸い、外部に大きい怪我は殆ど無かったので、目立った痕も残らないそうです。女の子ですし、良かったですね。」
私の体の状況を説明する医者の話も、安心させようとする看護師の呼びかけも、そのときの私には聞こえていなかった。
「あの、弟は……。一緒にいた筈、」
「……残念ながら。」
体が熱くなって涙が溢れる。上手く息が吸えない。
本当はわかっていた。もうあの子は助からない、と。あの血を見て心のどこかできっと、全部わかっていたんだ。あの瞬間が鮮明に思い出される。あの子の顔や、大破した車のナンバーまでくっきりと。私の忌々しい能力のせいだ。
カメラアイ、とも呼ばれるこれは瞬間記憶能力の一種だ。一度見たものをまるで画像のように記憶する。颯の息絶える瞬間を、それはもうはっきりと記憶していたのだ。
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