星が零れた日
俺の家に親がいることは少ない。親は共働きで現在はメキシコにいる、筈。その前はイタリアだったっけか。家事は一通りこなせるようにはなっているが、弁当と夕飯だけはきつい。朝から晩まで部活漬けの俺に凝った料理を作る暇は無い。だから、弁当と夕飯は似たような境遇の幼馴染が作ってくれる。
今日は休息日で、自主練だけ無しになった。いつもより1時間くらい早い帰宅だったから、律はまだ夕飯を作っている途中だった。課題を消費するために学校に残っていたから、律は逆にいつもより遅い帰宅だったらしい。
「ごめん。あれだったらちょっと走ってきたら?風呂もまだ沸かないでしょ?」
さっき風呂掃除をしてスイッチを入れたが、湯が張るまでにはまだまだ時間がかかる。律の言葉に甘えることにして俺はランニングシューズを履いた。
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一定のリズムをキープして走る。すると、前から見慣れた2人が歩いてくるのが見えた。急に止まるのは良くない、という菅原さんの言葉を思い出してゆっくりとペースを落としていく。
「影山?」
「ランニングしてたの?」
「おう。」
この前の塩キャラメル効果のおかげで、随分自然に話せるようになった。殆ど開かなくなったかきくトリオのLINEグループも、少しずつ稼働しつつある。菅原さんには感謝してもしきれない。
「この時間にいるってことは、今日は自主練しなかったの?」
「キューソク日?だと。」
「休息日な。」
少し前まであんなにギクシャクしてたのに不思議だ。そうぼけっと考えながら、まさか漢字で書けないってことは無いよな?、という国見の言葉を右から左へ聞き流す。
「現実逃避するんじゃねーべ。」
「うるせえボケェ。」
相変わらずのボキャブラリーの少なさ。ほんとそれな。ぼきゃ、?なんだ?
ぽんぽんと弾んでいく会話に心の中がほっこりする。これが楽しいことだというのがわかったのも烏野に行ってからだ。それから10分くらい話してそろそろ帰ろう、となったときだ。
「駅前に新しいカレー店がオープンしたの、知ってる?」
「カレー?」
「そうそう、お前の好きなヤツな。」
国見が突然言い出した。大好物の話題に思わず飛びつくが、金田一が俺の好きな物を覚えてくれたことに驚いた。何を言ったらいいのか迷って、んぬん、と唸ると2人は噴き出した。
「今度一緒に行こうぜ。」
「なんなら光城も誘うか?」
「お、おう。行く。行きたい。」
いきなり出てきた律の名前にびっくりして、日向みたいなどもり方をしてしまった。くそ。眉間に皺を寄せていたようで、急に金田一が慌てだした。
「も、もしかしてまだアイツ入院中か?」
なんか勘違いしてるのか?金田一は俺の表情を見てゴカイ、というやつをしたらしい。
「律はとっくに退院してるっつーの。会ってないのか?」
「いや、あんまり。」
「そうか。アイツ部活入ってねーから、帰るの早いしな。」
「じゃあ、光城にも言っておいてくれよ。」
「おう、またな。」
金田一と国見に別れを告げて、冷えてしまった体を動かす。そろそろ夕飯もできてるだろ。
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