光のレール建設計画 | ナノ

星に涙した日

 母は事故に遭ったと聞いて、東京から飛んできたらしいが、意識不明の私には会えず、颯の葬式をしてから、職場に連れ戻されたという。薄情だと言うものもいるかもしれないが、母の仕事が忙しいのは今に始まったことではない。父のいない家計をずっと支えてきたのは母だ。若い頃から血の滲むような努力をしてきて、今や母は一会社の社長だ。忙しいのは無理もない。

 母に手紙を書き、私は大丈夫だと言って嘘をついた。


 病室に見舞いに来た飛雄のことを、気にかけられる余裕は、当時の私には無かった。顔に仮面を貼り付けて、大丈夫だと笑う私の嘘を、きっとアイツは気づいていただろう。今思えば、飛雄の様子もどこかおかしかった。


 颯の墓参りのために一時退院、及び外出許可が降りたのは、事故からすでに半年が経とうとしていた頃だった。その頃には私はもうとっくに壊れていた。

 久しぶりにきたスーパーで花と颯の好きだった果物と、……カッターを買った。松葉杖では歩きにくかったが、そんなこともうどうでも良い。


 弟の名前が刻まれた墓石に手を当てる。ああ、あなたの代わりになれたなら良かったのに。飛雄と同じくらいバレーが好きだったあなたはきっと、将来があった。なのに、あれさえなければ。どうして。どうして私が生きているんだろう。私が死ぬべきだったんだ。

 カチカチとカッターの刃を出して息を吐く。目を閉じれば、あのときの光景が相変わらず鮮明に呼び起こされる。そしてそのまま手首に当てようとした。そのとき、猛スピードで飛んできたバレーボールが手を弾き、カッターを吹っ飛ばした。


「何してんだボケェ!!」


 私の命を救ったのは飛雄だった。今となっては感謝しているが、正直言ってあのことは思い出したくない。一言言うならば、初めて見るガチ切れした飛雄は鬼神のようだった。怖かった。



 私のような能力を持つ者には精神異常者が多い。サヴァン症候群などが例だ。飛雄に説教されて、観念した私は、医者に自殺未遂をしたことを打ち明けた。驚いていたが医者は付き添ってきた飛雄にお礼を言うと、私に心理カウンセラーを勧めた。その結果、私の入院生活はさらに長引いた。


 今、冷静になってわかる。颯は飛雄のことを兄ちゃんと呼び、慕っていた。飛雄もよく遊んでくれていた。一緒になってバレーをする2人が大好きだった。飛雄が平気な筈が無かったのだ。弟同然の存在が死に、その姉が自殺をはかった。部活でも上手くいってなかったらしい。飛雄だって辛かった筈なのに。

 やっと気づいたときには、何もかもが遅くて、罪悪感で胸が締め付けられた。ごめんなさい。1番大切なときに、私は。その日は今までに無いくらい泣いて、飛雄を困らせてしまった。


 3人がどうしてあんなにギクシャクするようになってしまったのか、私は知らない。入院していて結局一度も3年生として中学に行けなかったからだ。


 つう、と頬に雫が垂れる。いつの間にか泣いていたらしい。それを拭ってLINEを開く。
_________________________________________________

[今日は烏野、自主練無いらしい]

{わかりました}
_________________________________________________

 了解の旨を入力して、手を付けようとしていた野菜を置いた。今日は、夕飯を作るのを遅らせよう。

prev / next

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -