▼ ノープロブレム
エレナと谷地という新しい仲間を加え、烏野高校排球部は東京遠征にやってきていた。実際は埼玉で、東京ではないのだが。特に気にした様子はない。
他校の人たちは烏野の新しいマネージャーに興味津々のようでチラチラと窺っている。音駒の山本はマネージャーが2人も増えていたことにショックを受け、白くなっていった。
話題の渦中にいる2人の様子は対照的であった。谷地は例のごとく、背の高い者、顔が怖い者に怯え、殆どエレナの影に隠れるようになっている。ぷるぷると震える姿は小動物のように見える。もう1人のマネージャーであるエレナは谷地を慰めながらも、内心ウズウズしていた。というのも、日向から聞いていた遠征の話。楽しそうに話す彼を通して、他校の面々に興味を持ったのだ。
そんな2人に一際大きい影が近づいた。ぴゃっと不可思議な声をあげる谷地を清水に任せた時、その影はエレナに声をかけた。
「俺はリエーフ。ねえ!もしかしてきみもハーフ?」
「No. 私はハーフ違うデス。
I'm from England.」
「?いんぐらんど?」
「
The United Kingdom.」
「ゆなっ…?」
あっ、ダメだこれ。僅かなリエーフとの会話の中で、エレナはそう確信した。すらっと出てきてしまった母国語。これではダメだ。エレナはそう思って、リエーフに分かる言葉を探す。しかし、なかなか出てこない。イギリス人と言えば良いのだが、焦るばかりの頭の中では出てこなかった。
「あー、English!」
「イングリッシュ?アメリカ人なのか!」
この世界に広く伝わる単語なら分かってくれると思ったが、リエーフは生粋の馬鹿だった。英語はイギリス発祥なのに…。とエレナは進まない会話にガックリと肩を落とすと同時に、デジャヴを感じた。
「ぶっひゃっひゃっひゃ!」
「リエーフ!エレナはイギリス人!」
2人の会話に耐えきれず噴き出したのは音駒の主将の黒尾。リエーフに訂正をしたのは日向だった。あ、そうだイギリスだ。と思い出したエレナもだんだん落ち着いてきた。
「なんだイギリス人なのか!ならそう言えよ!」
「ズット言ってた」
リエーフの抜けた発言にエレナは間髪入れずにそう返した。まだ頭にクエスチョンマークを浮かべるリエーフに日向が説明する。EnglandとUnited Kingdomがイギリスを指すこと、英語はイギリス発祥だということ。
突然だが、時を遡ること約1年前。エレナが感じたデジャヴについて説明しておこう。中学3年生の時に転入してきて、日向の隣になったエレナ。挨拶の後にしたのは出身の話。日本語の拙いエレナがどうにかしてイギリス出身であることを伝えようとしたが、日向は勘違いをして、暫くの間エレナをアメリカ人だと思っていた。それがエレナの感じたデジャヴである。閑話休題。
「大丈夫?」
疲れた様子のエレナに黒尾が声をかけた。その顔はニヤニヤとしていたが、それを気にする余裕もなく、エレナは苦笑いを浮かべた。
ノープロブレム 私よりも、馬鹿2人の頭が心配です。
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