バイリンガール! | ナノ


 見るからにうそつき

 バレンタインデーとは。



 女性が男性にチョコレートを渡し、愛の告白をする日。片想いをする乙女にとって外せないビッグイベント、らしい。

 去年も一昨年も驚いたが、日本には本命チョコ、友チョコ、義理チョコ、というものがある。クラスの友達は勇気を出して告白する!という信念のもと、チョコレート作りに励んでいるようだ。

 私はといえば、特に誰に作ってあげようとは思わなかった。そもそも、日本とイギリスでバレンタインデーに対する認識が大きくズレているようだ。イギリスではバレンタインデーというのは、恋人達が愛を伝え合うもの。女性から男性にプレゼントをすることも珍しくはないが、どちらかというと、男性から女性にプレゼントをすることが多い。

 そんなカップルのためのイベントは、恋人のいなかった私には全くの無縁で。日本に来てからも別に何かしようとは思わなかった。去年期待していた田中さん、西谷さんは物凄くがっかりしていたから、少し罪悪感はあったけど。

 まあ、それは去年までの話で。2年生になってすぐ、蛍と付き合うことになったのでバレンタインデーは無視できないイベントとなった。甘いものが好きな彼ならチョコレートを渡せば受け取ってくれるだろう。だけど、彼はモテる。物凄くモテる。去年も両手に抱えきれない量のチョコレートを持っており、漫画みたいなことって実際に起こるんだ、と関心すらした。でも手作りは食べていないようなので、彼に聞いてみたところ、心底嫌そうな顔をされて逃げられた。後でこっそり教えてくれた彼の幼馴染は、「ツッキーは中学で色々あったから……。」と意味深な発言を残していった。

 手作りはきっと貰ってくれないだろう。だからといって市販はどうだろう。バレンタインデーまでもう1週間を切った。そろそろなにか考えないと本格的にヤバイ。


「っていうか、chocolateじゃなくても……。」


 イギリスではカードを添えて、花やワイン、シャンパンなどを贈るのが一般的だ。プレゼントはチョコレートに限らない。未成年だからお酒はダメだし、花は……そんな奴じゃないよね、うん。

 考えてはみたものの、何一つ思いつかない。溜息を吐いて目を閉じた。仕方ない。明日なにか欲しいものがないか蛍に聞いてみよう。悟られないようにさりげなく。
























「ケイ!なんか欲しいモノ、とかありマスカ?」


 部活が終わり、暗い道を2人で歩いているとエレナが不意にそう言った。山口は嶋田さんのところにサーブの練習に行っているからここにはいない。いつもの他愛もない会話かと思えば、握られた手に力が入っているところを見るとそうではないようだ。


「なんでいきなり。」


 誕生日はとっくに過ぎてるし、プレゼントも貰った。バレンタインデーは近いが、バレンタインといえばチョコでしょ。だったら別に欲しいものとか聞く必要ないし。

 とにかく分からないから探りを入れてみることにした。


「なんでそんなこと聞くわけ?」

「エッ、ナ、なんとなく?」

「ふーん。誕生日は過ぎてるよ?」

I know!知ってるよ!


 食い気味に言い返してきたエレナに違和感を覚える。焦ったりすると英語が飛び出すのはエレナの癖だ。何かある。そう思うけど、バレンタインくらいしか思いつかない。


「もしかして、バレンタイン?」

「う、あ、It is not like that……そうじゃなくて……。


 この反応はビンゴか。もしかしたら日本とイギリスではバレンタインデーの概念が違うのかもしれない。エレナも言い逃れは出来ないと悟ったのか、口を開いた。


「バレンタインデー、イギリスでは、coupleのday……ダカラ。ナニカ欲しいもの、知りたくて。」


 どうやら本当にイギリスでは違ったようだ。自分のために考えてくれていたのだと思うと、思わず口角が上がりそうになるが、ぐっと堪える。


「ねえ、君さ。弁当いつも自分で作ってるって言ってたよね?」

「え?あ、うん。」

「じゃあ、ショートケーキ作ってよ。」


 恋人達の日なら、少しの我儘くらい良いんじゃない?

 エレナは僕の好きな笑顔でOf course!もちろん!と言った。




 バレンタインデーはあまり好きではなかったけれど、今年は今までで一番のイベントになるかもしれない。

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