シキさんと主将
「あ。」
「色摩!」
消灯まで30分。色摩がトイレを済ませ、タオルで手を拭きながら廊下に出てくると、澤村、菅原、東峰と鉢合わせた。
「そういえば、色摩って主将だったんだな。」
「でも、なんか納得するな。」
菅原と東峰が色摩を見て言う。
田中と西谷の手綱を握る姿を思い出しているのだろうか。
「色摩が主将をやっていた経験からアドバイスを貰えないか?」
「え?」
澤村の思いもよらない一言に色摩は間の抜けた声を溢す。
「全国制覇したチームの主将の意見を聞いておきたいんだ。」
澤村の真剣な表情に色摩は口ごもる。
渋っている様子に3人は首を捻った。
「帝光は、少し特殊なんです。」
色摩の言葉に3人はさらに意味がわからないという顔をする。
苦く笑って口を開いた。
「勝つことだけが全て、だったんです。
負けて学ぶこともあるけれど、帝光は負けることを許さなかった。
理念が可笑しいことには気づいていました。でも、これでいいとも思ってたんです。」
虹村と試合をして、最初はずっと負けていた。
負けて、自分の至らないところを見つけ、一つずつ直していった。
結果的にそれは勝利に繋がった。
だが、主将になって『百戦百勝』を掲げるようになってからは、その疑問を押し殺した。
全ては勝つ、ために。
「強豪校も大変なんだな。」
「烏野はこのままが良いんですよ。
澤村さんも自然体で良いんです。
それが烏野の強さですから。」
「そうだな!」
「もー大地!旭じゃないんだから弱気になるなよ!」
「俺じゃないんだからって酷い……。」
3人のやり取りにクスクスと笑うと、色摩は踵を返した。
「じゃあ、消灯の時間なので。また明日。」
「おー、早く寝ろよー。」
母親のような言葉をかけられ、心が温かくなる反面、心に負った傷痕がつつかれた気がした。
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