Disappear

出会いは唐突に。
と、よくいうが、俺はこの日ほどそれを痛感したことはなかった。



Disappear




決してそこを見せない強さと柔らかそうな笑み。
全国大会で初めて不二周助を見たとき、後に彼曰く俺は困ったように笑ったらしい。
それを彼から聞いて、そんときから俺のこと見てたんやなと言って、腹に回し蹴りを食らったのもよく覚えている。



確かに困ったのも覚えている。
何か心臓を握り締められたような苦しさと手を精一杯に伸ばせば剥がせそうだという期待と剥がせた奥を見たいという欲望。

ここまで入り交じった感覚をもて余して困ってた。





そんなときに
俺との試合に負けたアイツが話しかけてこようとは予想していなかったから戸惑って当たり前だ。


「白石」

「ぞぇぇっ?!」

「…何?」

「い、いや…」

俺はさっきまでコートを挟んでいた青い目に軽く睨まれて言葉に詰まった。


あぁ、またこの感情だ。
苦しさと期待と欲望。



「白石」

ぼうっとしていたからだろうか、不二の凜とした声を遠くに感じる。

「なん?」

「…君って強いの?」

「……おん。」

「へぇ。」

感嘆とも関心ともつかない反応をした不二は不意にグイッと俺の襟を引き寄せた。
突然のことに俺が上半身を傾けると、不二は意地悪く笑って言ったのだ。

「…僕は強いヤツにしか興味はない」

そのまま不二はスッと離れてさっさと走っていってしまった。


呆然としていた俺の背後から「へぇ」という声が聞こえてきた。

振り返ると菊丸がケラケラと笑って立っていた。

俺はなぜか見られていたことに羞恥を感じてわずかに俯いた。

「なんや?」

「いや…お前、気に入られたな。不二に。」

「は?」

「がーんばーれよー?」

「え?」

そういうと菊丸もさっさと走っていってしまった。


はぁと一人溜め息をついた俺は直ぐに顔をあげた。

そして気がついたら不二のいるところへと走っていた。


「覚悟せぇよ、不二。」

その呟きは届くことを知らないけれど、俺にはどうでもよかったのだ。
俺はこっそり笑ってさらに足を速めた。





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