チェーンソー
越前が3-6によく来るようになったのか
不二が彼をよく探しているのか
ただの偶然なのか
最近越前によく会う不二は分からなくなっていた。
「……狙われてんね」
菊丸が珍しくやや真剣な顔をして言ったけど不二には腑に落ちないことが多すぎて同じ表情を造ること失敗した。
「狙うって…だってお昼食べてキスしたくらいでそういう一線は越えないだろ?」
ああもうなんでそんなにキョトンとしたなにもわかりませんって顔するんだよ。と呆れてかけた菊丸はピッと人差し指を立てる。
「いいか、不二。キスはその一線を越えるのに十分なんだぞ」
しかし不二は真剣の欠片もなく笑って言ってくれちゃうのだ。
「まさかぁ。だって触れるだけのだよ?舌いれてる訳じゃあるまいし」
「待った」
「しかも押し倒されたりした訳じゃあるまいし」
「ストップ」
「一線を越えるっていうのは、ホラ、セッ…」
「ストップ!!」
「あい?」
「…一体お前の一線ってどこなんだよ」
菊丸は不二がマシンガンのように言葉を連ねるのを止めようとげんなりと問うたのだが
それが逆効果だったことに気が付いたときは遅かった。
「だからそりゃ、セッ…」
「分かりましたなんでもないです愚問でしたねすいませんでしたっ!」
「………?」
菊丸が慌てた理由を察してくれる人はどうやらこの場には居ないらしい。
不二は何も解らないような顔をしているのがそう確信させた。
思わず項垂れそうになった頭を無理に持ち上げて菊丸は再度人差し指を立てることに成功した。
「いいか、不二。お前が一線を越えてないとしても世間的には越えちゃってんの。
だから早めに越前と白黒つけとかないと後で後悔すんのは不二だぜ?アイツは結構ヤり手だからな。
あ、これオチビには俺が言ったこと内緒だぜ?」
「……って英二に言われたから、越前くんを呼んでみましたぁ」
「はぁ…」
越前としては、誰もいない部室で自分と二人っきりの時点で、もう菊丸の注意に沿っていないと思うのだが、自分には好都合だから言わないでおいた。
「…っていうか、先輩それ俺に言っていいんスか?」
「なんで?」
「…いや、いいです。それで?」
「うん。だからね。僕は君の気持ちは受け取れない。」
「なんでっすか」
「君のことをLoveで好きな訳じゃないから」
「………」
普通なら相手が傷つくのを避けて口にしないであろう言葉を言ってのけてくれちゃった先輩を見て、越前は内心苦笑した。
ただそんなところが好きだなんて思った自分に苦笑しただけで、先輩のバカっぷりを今更笑った訳じゃない。
今更。
でもここで諦めないのが越前リョーマの越前リョーマたるゆえんなのだろう。
いつものように挑戦的な顔で言ってやるのだ。
「付き合ってみれば好きになるかもよ?」
「……そういうもんなの?」
「それで幸せになった人も結構いますよ」
「付き合うことになったぁぁぁぁぁ?!」
菊丸の声が耳に響く。
いつも声のデカイ彼がマイクを使って狭いカラオケボックスで叫んだのだから相乗効果どころの話ではない。
「英二、耳いたい」
しかも被害は不二のみに留まっているらしい。
二人で来たのが間違いだったかとずれたことを考えている不二を英二は歌を中断して問い詰めた。
「何でだよ?お前オチビのこと好きな訳じゃねーんだろ!?
なんで断らなかったんだよっ!?」
「ちゃんと断ったよー…でも付き合ってみれば好きになるかもよ?って言われて、なんか付き合うことになってた。」
菊丸はまたしても項垂れそうになった頭を無理に持ち上げて人差し指をピッと不二の顔の前で立てる。
「お前…それ、騙されてんぞ」
「えっ、でも付き合おうって言ってないのになんか付き合うことになってたの!僕のせいじゃないだろ?」
今度こそ菊丸は我慢できずにガクリと頭を垂れた。
「…バカと天才は紙一重」
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