いつもより?


「不ー二先輩っ」

「はいはい、どちら様?」

「…越前様」

「…なに?」

「キスしていい?」

「丁重にお断りさせていただきます」

「冷たい」

「元からだよ」

「無理矢理しちゃいますよ?」

「丁重に全力で逃げさせていただきます」

「キス好きなくせに」

「好きじゃないですから」

「いいじゃないっすか」

「全力でお断りさせていただきます」


部活終了後、そんなようなやり取りを部室で3回くらい繰り返しているバカ二人組を、大石は無言で眺めていた。

正しくは何も言えずに眺めていた。


本人らが気がついているかどうかは定かではないが、彼らは今、相当目を惹いていた。

しかし止められる術もなく皆傍観したままだ。
止めさせられる手段があるのならなんだっていいのだが、ないことはない。
ゆえに皆困り果てているのだ。

ふと大石のとなりに座った桃城が、我関せずな様子で聞き流すことに苦しみを覚えたらしく、口を開いた。


「…なんつーやり取りをしてるんスかね…」

大石はちらりと桃城を見、応える。

「あいつらは何がしたいんだかな…」

そんな大石の一言で、今も耳に与えられる信号がさらに馬鹿馬鹿しく思えてきて、二人は同時にため息をつく。


「不二せんぱーい」

「何?」

「……まだ怒ってるんすか?」


未だに収束のつかないまま流れていた会話が不意に途切れた。
不二が黙っただけで、こうも部室が無音空間に早変わりするとは、誰も予測し得なかっただろう。

しかし、越前が最後に言った科白を聞いた瞬間、付き合いの長い菊丸は、咄嗟に焦りを覚えて「待っ…」と、越前の口を塞いだ。

時すでに遅しという言葉がこの地球上にあるが、まさにその言葉を引用すべきときが今ここに君臨していた。

帰ってから国語辞典を見直してみようなんて思う時間は与えられずに、ゆっくりと不二が菊丸と越前を見る。

二人の顔が、後悔と畏怖の念に染まったのは言うまでもないだろう。


その不二の顔に貼り付いた、恐ろしい笑顔に後押しされ、桃城の声が部室に響いた。


「たっ、退避ぃー!!」


静まり返った空間に、不二の指がガチャリと閉める音が響いた。
いやにその音が大きく感じる。

ひゅっと喉がなるのを、越前は人生ではじめて体験した。
こんな感じなのかと感動しつつも、目の前の重たいどす黒い何かに押されて、結局なにも言えない。


「さぁて」


その言葉を歪められた、赤い花弁のような唇が縁取る。
しかし、手元のラケットが何故か鎌に見えて、その美しさも毒にしかみえいない。
そんなことは不二にはどうでもいいらしいが。

「このラケットは今から素敵な緋色に染まりまーす」

後ろに星でも着いていそうな愉快な口調で言った不二を、ただ真っ黒な瞳で見つめるしかない越前と菊丸だった。

□■□■□■□■□■□

…で、翌日の氷帝との練習試合でのこと。
なにも知らない氷帝レギュラー陣は、菊丸と越前を見、吃驚して、手塚やら大石やらに問いかけていた。

しかし、誰に問いかけても、「……聞くな」としか言われなかったのだった。


そんな中、不二は怖いくらいにご機嫌で。

「うわぁ、英二痛そうだねぇ…そんなにバンソコを顔に張ってたら、元からの英二のトレードマークも意味が皆無だよね」

「……うっ!」

「…越前まで、誰にやられたのぉ?こんなに傷ついたら俺のかっこよさが台無しっすよ、って言わないの?」

「…ぐっ…」

((酷いメンタル攻撃だ!))


皆がその姿に撃沈する中、不二の肩に手を置くものが一人。


「そんくらいにしとけ、不二」

「跡部」


跡部は一つため息を吐くと、片眉を吊り上げて言った。


「何にキレてんだ?」

「越前が僕の写真を英二からもらっててさ。それをたまたま僕が見つけて、英二に問い詰めたら、越前がって言うから拗ねてたんだ。仏の顔も三度までっていうだろ?でもどうやら越前に反省の色が皆無だったので、生かさず殺さず状態にしました」

にっこりと笑っていう不二に、誰もが(惨い!)と思ったのだが、跡部ははっとしたような顔をした。
そのままじっと不二を見つめて。

しばらくするとはあ、とため息をついた跡部は不二を背負った。
いわゆるおんぶというやつだ。

跡部はそのまま手塚に歩み寄って。

「こいつ熱ある。家まで送ってくわ」

「おぉ…そうか……頼…む…?」

そのまま歩き出す跡部に

「いや、待て待て待て!!」

と、突っ込む。


「待て、何で顔見ただけで、熱あるとわかった?!」
と、大石。

「つーか、何で不二の家知ってんだよ?!」
と、向日。

「せや!ほとんど接点ないやん?」
と、忍足。

「…どうもこうも俺がコイツと幼馴染みだから」

全員があたふたしているなか、跡部はさらりとそう言い残して、立ち去ってしまった。

後に静寂が残る中、魂が抜けてベンチに座り込んでいる越前が、隣の菊丸に言った。


「こんな状態になっても不二先輩が好きな俺って、バカっすか?」

「…あぁ。バカだよ、真のバガだよ、俺は二度とお前らに関わんねーからなあっ」

「……あはは」



その光景があまりにも悲惨で、大石は乾の肩に手をかけた。

「…乾……胃薬…」

「はいはい」


かくして越前・菊丸殺されかけ事件は幕を閉じたのだった。
ハッピーもバッドもあったものではない終演だが、誰もそれを咎められるわけがなかった。


+--+--+--+--+--+--+--+
……長。
しかも跡部と不二がさりげなく幼なじみ設定。

衝動でかいたギャグでしたが、いや、これはひどい。
書いたあとの自己嫌悪が収まらない。
…とか、言いつつアップしている我はそろそろ思考回路が死にますよね…はい。←




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