荒野の果てに


「君…一体、何者?」

それが仁王雅治が覚えているなかで、一番印象深い不二周助の言葉の中のひとつだった。


荒野の果てに


母に頼まれた買い物を、相当不本意ながらも引き受けて東京にやって来た仁王は、そのかなり嫌悪感を抱いていた買い物を済ませると、CDショップに立ち寄ることにした。
特に欲しかったものがあるわけではないが、このまま帰るのも何となく嫌だったから入っただけだ。
だからもちろん入ったところで早くも手持ち無沙汰になり、とりあえずROCK系CD売り場へ向かった。

興味のあるものを探すように左右のCDラックを見つつ、ゆっくりと歩を進めていると、不意に、このコーナーの雰囲気にやけに合わない人物をすこし遠くに見つけた。

見覚えのある色素の薄い髪と、白い肌、さして高くない背丈に細い身体。
人目を惹くその彼に、内心仁王は心底嫌そうに顔をしかめた。
留まる意味も特にない仁王は、彼がこちらには気がついていないらしいのをいいことに、くるりと身を翻した。


「挨拶もなしに行っちゃうなんて、酷いじゃない」


柔らかい声が聞こえ、それを振り返れば、やはりそれに呼応した笑みと浮かべた不二が仁王の視界を占める。
仁王はまた顔に出さずに、内心苦虫を潰したような顔をした。





「…ふぅん。お母さんのおつかいに、ねぇ。意外だな」

入ったカフェの向かい側に座った不二は、仁王を見て、ふと面白そうに言った。
いつもと同じ柔らかい笑みを浮かべて。


仁王はそれにかなり内心眉をひそめたが、やはりそれを顔には出さずに、少し驚いた様子の表情を顔に張り付けて見せた。

「まだここに来た事情は話しちょらんぜよ」

そう言った仁王を、不二は思いっきり睨み付けた。
仁王はさらに驚いた様子の表情を見せた。
今度は造り上げたものではない。

「君の持ってるその紙袋、レディース物が多い店のだから」

不二はさらに眼を鋭くして言った。

「ほぅ?お前さんは名探偵ナリ」

僅かに表情を崩して冗談めいた言葉を並べた仁王を、不二は暫く見つめ、一度考えるように「僕が名探偵、ねぇ…」と、目を伏せた。
それから猫を思わせるゆっくりとした動作で目を開いて、仁王を見据えた。

無意識のうちに仁王の体は力が入り、ぐっと息を詰めてしまう。

不二はそのまま言葉を並べた。

「君…一体、何者?」


仁王は僅かに眉をひそめて、不二を見る。
不二もまた仁王から目を逸らしはしない。


「砂漠だよ。僕には君を透かして荒野が見える。」


仁王は体を固めたまま、しかし大きく目を見開いた。
目を伏せた不二が哀愁を漂わせているように見える。


「荒野…?」

「そうだよ。君を透かして荒野が見えるんだ、君に会う度。
比喩的な話じゃないよ?本当に見えるんだ。
木も草も水も枯れた荒野」


自分を透かして荒野が見える。
世間的に言えばかなり可笑しな話だろうに、仁王は不二の言葉を馬鹿馬鹿しいとはねのけることは出来なかった。

自分を透かして荒野が見える。

それはかなり当たり前のような、ぴったりと合っているような感じがして、気がつくと仁王は「そうかもしれんのう」と、笑っていた。

しかしその笑みも100%本物かと言えば、嘘になるわけだが。


不二は一つ、仁王を睨み付けるとため息をついた。
妙に棘のあるため息だった。

「俺には、おまんが全くもって分からんきぃ、おまんが苦手じゃ。」

そんな不二に仁王が言った。
不二は僅かに丸くした目を、一気に鋭くした。
それに比例して仁王は仰け反る。

「君なんて大嫌いだよ。君は僕に似てる。だから、大嫌いなんだ。
君には僕が分からない?
ふざけるのも大概にしなよ?君には全てわかってるはずだ。
分かってるから怖いんだ」

そこまで勢いよく言った不二を仁王は目を見開いて見つめていた。
不二の丸くした眼がグラグラと揺れている。

煮え切らない腹に従うように、不二はそのまま立ち去ろうと立ち上がったが、かなり強い力で腕を引き戻され、仁王の隣にペタリと座り込む羽目になった。

仁王はこちらをかなり威圧のある眼で睨む不二に、僅かに怯みつつも見つめ返す。


「なら、簡単じゃき。俺は苦手と言っただけじゃ。
俺のことを嫌いでなくなるまで、逃がさんきにのう」


「なにそれ。」


「おまんに帰ってもらいとうない言うとるじゃ。」


そう言った仁王の表情を意外に思い、不二は目を伏せて、少し間を開けてから口を動かす。


「ふぅん」


妙に素っ気ないその言葉に、仁王はニヤリと笑うと、言った。

「俺の荒野とやらを草原にしよるんはお前さんの仕事じゃきぃ、覚悟しときんしゃい」

不二は暫く仁王を見つめていたが、すぐにふいと顔を逸らした。
仁王はその頭を包み込むように撫でて、おかしそうに笑う。

不二は反対側の窓から見える夕焼けを睨み付けてみた。
何も変わらないのが悔しくて小さく口を尖らせる。


仁王は、不二が隠せているつもりの表情が自分に見えているのを、やはりおかしそうに笑った。


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仁王ってかっこいいっすよね!

我的にはこの二人は身長差が……あぁ…って感じです。

仁王は絶対的に強気が一番(^^)
それに負けじと対抗してみる不二くんとか絶対かわいい(^^)

と、我は思うわけです。

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