願いと眸とベストアンサー



「僕ね、大嫌いだったんだ」

白石の部屋でゴロゴロしていた不二は、パッと顔をあげて白石を見あげた。

珍しく部活の連休が入った夏休みのこと。


願いベストアンサー


「……なんやて?」

「だからぁ…僕は自分が嫌いだったって言ってんの」

それを聞いた白石は、何よりも近頃不二の口が悪くなったな、とズレたことを思案していたために、不二に頭を叩かれる羽目になった。

「因果応報」

白石は、かなり自分に都合の良い四字熟語を並べてくれた不二への不満を、言葉に馳せてみる。

「…嫌いな理由て…自分が女顔やから?」

バチン。
平手が自分の頬を叩いた理由が理解できないのは、白石がバカであるというだけの話らしい。

「自業自得」

「…堪忍したって下さい。」


気のない謝罪を並べた白石は、ふぅと一つ息を吐いた。

分かっているのだ。
彼が何か、自分の事で悩んでいるのは。

だけど、それを聞くことで自分に歯止めが掛からなくなるのが。
不二のために自分が何をするのか知ることが。
白石に畏怖の念を抱かせていた。
畏怖というよりは、漠然とした恐怖。


「……お兄ちゃんはさ」

しかし、その白石の心境を知ってか知らずか、不二は凜とした声を響かせた。

全てを見透かされているようで。
全てのものを揺り動かされるようで。
美しい響きなのに。
白石の最も苦手な不二のこの声。


「…お兄ちゃんは、僕の何なのかな?」

ある程度予測していた言葉なのに、白石は大きく目を見開いた。
そして、不二のそばによると、くしゃりと頭を撫でた。

「…俺は…兄ちゃんは…、不二んことちゃんと好きやで」

不二は、ニィと笑った白石をチラリと見ると、目を伏せた。

「……お友達にね…、白石って、不二のこと家族のようにしか思ってないのかもよ、って言われた。」

白石は、吹き出しそうになるのを、必死で耐えた。
自分等の気持ちが通じた気がして。

代わりに、にんまりと笑った。

不二はその顔に笑い返すでもなく、見つめていった。

「…僕はそういう兄貴が欲しかったんだ」

らしくない不二の言葉に、また白石が笑ってみせた。


「おん。ちゃんと不二の兄ちゃんやで。」


その言葉には、珍しく不二が優しく笑っていた。


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