君の扉が石で造られている理由
君の言葉はいつも棘を帯びていて
優しさや照れなんて伝わってきやしない。
「ふーじ君!」
「黙れ、消えろ、視界に入るな」
「ひどい!」
そう、一度も微笑んだことなんてない。
君の扉が石で造られている理由
恐らく簡単に諦めてくれる奴ではないだろうとわかってはいたが、あそこまで執念深いとは思っていなかった。
菊丸はフェンスを見て聞こえよがしにため息をつき、不二を振り返る。
「なぁ、不二。いい加減ウザいんだけど」
「そうですね。」
「そうですね、って。お前のせいもあるん……」
「僕のせい?」
気がついたときにはもう遅くて、絶対零度の笑みを浮かべた不二が「僕のせいですか」と繰り返すのを、菊丸は失言を後悔しつつ顔をひきつらせた。
そう。
不二を怒らせることは、車に引かれるより、飛び降りるより、惨く速く菊丸の命を奪われることに等しい。
だから命のために押し黙る。
そこで菊丸が俯いたのが効果的だったのか、不二はため息をつきながら、フェンスを握り締めている千石のもとへと歩いていった。
菊丸はガッツポーズをしかけたを止めたのは、昨日のバラエティー番組で「命とは尊いもの」と言っていたのを思い出したからだ。
「……何やってんの」
「不二子ちゃんに会いに来たの」
頭の回りに花が見えて、無意味だと思っても不二は一度目を閉じてまた開けてみた。
やはり彼の回りには花が飛んでいる。
「別に僕は君に会いたくないよ」
「いいじゃない。俺が会いたいんだから」
「帰れ」
「ひどい!」
「帰れって」
「どうして?」
「君が大嫌いだから。」
不二に無表情で言われたことに千石は笑みを抑えて、その目を見た。
そういえば、と千石は思う。
彼は自分と話しているときは常に開眼していたような気がする。
青い瞳を見つめ返しながら千石は無意識のうちに口を動かしていた。
「じゃぁ、どうして俺には冷たいの」
千石のいくらか寂しそうな声に不二は眼を細める。
「なんで愛想笑いしないの」
今度は不二が眼を見開いた。
「…なんで、猫、かぶんないの」
不二は眼を丸くしたまま千石を見上げた。
オレンジの頭がよく映える。
「……あははっ。…なーんてね。今のは…」
「いいこと教えてあげる」
千石がいつものようにへらっと笑って言った台詞は、不二にブチッと遮られる。
不二はいつも通り無表情のままだった。
でも幾らか明るみのある声で言葉を紡ぐ。
「僕はね、強くて器の大きい人に惹かれる。」
不二は黙っている千石をちらりと見る。
「器の大きいっていうのは、僕に猫をかぶらせないこと。」
今度は千石に眼を見開く番が回ってきた。
「それから」
不二はやっぱり無表情で。
「一途なヘタレは嫌いじゃない」
不二はそこまで言うとニヤッと意地悪くわらって。
何も言えていない千石に背を向けるとさっさと菊丸のもとへ駈けていく。
噛み殺せなかった分の感情に口元を緩ませながら。
残された千石はすぅと息を吸った。
「あーあぁ…」
空がその言葉を吸い込んで光った。
+--+--+--+--+--+--+--+
あー!!
ちょっと甘く書けたんじゃない?甘く書けたんじゃない?( 〃▽〃)
頑張ってみました、初の千不二。
いやぁ…
なんで旦那さんは皆さんヘタレで不憫になっていくんですかね…
千石さんはナンパ得意だから絶対ヘタレではないと思います。
彼は不二くんのまえだとヘタレになってしまうんです。
調子が狂うんですよ。(我も)
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