今日も震えない携帯電話。
少し前なら一日に何度も着信を伝えていたはずのそれは、まるで電源が入ってないかのように静まりかえっている。
もしかしたら本当に電源が入ってないんじゃないか、とローテーブルの上に鎮座しているそのサイドボタンを押すと、画面には時間と海の写真が表示された。
わずかに祈っていた願いも壊され、余計に空虚になってしまった心をかばうようにクッションを胸に抱いてみる。
柔らかいけれど、温度は感じられない。
あぁ、もう本当にみじめだ。
なんだか可笑しくて笑ってみた声は、静かな部屋に霧散して消えた。
きっかけは、何だっただろうか。
きっとまた思い出せないほどに些細な事だった気がする。
本当に取るに足らないこと。
けれどお互いの口から放たれる言葉が、どんどんと小さな傷口を広げていって。
気付けばまたこうして一人きり。
もう何度こんな事を繰り返しただろう。
その度に傷ついて、泣いて、謝って、それでもまた喧嘩して。
いい加減疲れてしまった。
自分も彼も悪い部分はもちろんある。
それは分かっているのだ。
大人になりきれなかったからこそ、こんな風になってしまったのだから。
けれど、もう、どうやって修復したらいいのかが分からなくなった。
傷口を作る毎に治ったように見えてたけど、少しずつ少しずつ痕が濃くなっていって、元の色と明らかに違うそこを見過ごせなくなったとでも言うべきかもしれない。
心にもやがかかったような感覚。
それは本当の気持ちまで覆い隠して。
今は彼が好きなのかどうかすら曖昧にぼやけてしまった。
これじゃ、本末転倒もいいところだ。
傍にいたい、いて欲しい。
触れたいし、触れて欲しい。
そう思っているはずなのに、動けない。
彼の気持ちが分からなくて、掴めなくて、どうしたらいいのだろう。
何もかも分からない。
全部がこの手をすり抜けていってしまう。
唯一確かなのは、連絡がないことと、胸の痛みだけ。
もういっそ全てが悪い夢だったと笑い飛ばしてしまいたい。
こんな自分も彼も震えない携帯も痛みも全部ぜんぶ夢だったと。
そう、言えたなら。

「好き。ほんとに、好きっすよ」

なんて薄っぺらい言葉。
口にしたら驚くほど嘘っぽく響いた。
誰にも本当のことなんて分からない。

きっとこの後いくらかしたら彼からの電話がきて、なんだかんだ言っても優しい彼は許してくれるのだろう。
そして、また自分もそれに甘えてしまって曖昧な関係は続くのだ。
二人して、いつ崩れるかわからない足場の上で手をつないでいるような。
でも、自分も彼もそれを手放すことはできない。
なんて滑稽なんだろう。

思わず漏れた笑いと重なって、携帯が震えた。

いつか崩れるその時まで
(二人で喜劇を。)

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