ねぇ、
懐かしいものがたくさんあるんだ。

夏の雲とか
冷たい雨とか
秋の風の匂いとか
傘に当たる雨の音とか
春の土の柔らかさとか
体育館に響くスキール音とか
放課後のひんやりした空気とか
帰り道に買い食いしたアイスとか
黒板消しの匂いとか
夕立のアスファルトの匂いとか
夜中のコンビニの安心する感じとか

そういうものを
俺はずっと

一緒に感じていたいって
思ってたんスよ






「黄瀬ェ!!早く帰んぞ!!」
「わ、ちょ、青峰っち待って!!」

慌てて荷物を詰めて、ばたばたと走り寄ってくる黄瀬。
それを横目で確認してから下駄箱に続く階段を降りて行く。

「それにしても体育館が耐震工事だなんて、かなりショックっス…」
「まぁ、それならいつもの公園にでも行きゃいいだろ」

それはそうっスけどぉ、と隣で肩を落とす黄瀬を適当にあしらいつつ、自転車のキーを差す。
黄瀬と俺は、いわゆる幼なじみというやつだった。
家が近所で親同士が仲が良かったこともあり、物心つく前から一緒に遊んでは泥だらけになって帰ることもたくさんあった。
幼稚園に入り、小学校に上がってもその関係が変わることはなく、何だか家族よりも過ごした時間は長いような気までするほどだ。
小学校に入学して少し経った頃、俺がバスケを始めたのを見て、黄瀬もやり始めた。
小学校も中学校も共にバスケ部に入り、学校には部活をしに来ていると自信を持って言える程に二人してのめり込んでいった。
黄瀬との1on1は常に気が抜けないその緊張感が堪らなく楽しくて。
今は俺が当たり前に連勝しているが、明日はどうか分からない。
まぁ、負ける気はさらさら無いけれども。

きっとこの先も、そんな日々が続いていくのだろう。
どこかでそう思っていたのだ。



2039年、火星に向かった探索チームが異星人の遺跡を発見した。
そして探索チームは異星生命により全滅。
現在は、その異星生命タルシアン調査のために国連宇宙軍戦艦リシテア、レダ、ヒマリア、エララの4隻が建造され選抜メンバーが集められていた。
各戦艦にはトレーサーと呼ばれる戦闘機が配備されているらしい。
トレーサーに搭乗する戦闘員は全世界で1000人だという。


正直、興味が無かった。
この星の一大事といっても、お偉いさま方の問題で自分たちに降りかかっている訳ではない。
遠い話だ。

その時は、そう思っていたのだけれど。


いつもの帰り道。
自転車の後ろに黄瀬を乗せて公園までの道を辿る。
今日あったこと、明日のこと、そんな他愛もないことを話しながら。
この時間が心地よかった。
夕焼け色の街も、頬に当たる風も、肩に触れる黄瀬の温度も。
絶対に口にしたりはしないけれど。
突然、黄瀬の言葉が大きな音にかき消される。
空を見上げると、夕日を受けて光るトレーサーが尾を引いて飛んでいた。
うるせぇな、なんて思っていると、不意に黄瀬が口を開いた。
肩に置かれた黄瀬の手に力がこもる。

「俺、アレに乗るんスよ……」

頭が真っ白になった。
黄瀬の言っていることが理解できない。
黄瀬が、トレーサーに乗る?
確かに、操縦技術に関してはトップになれるかもしれない。
これでもモデルだから、イメージ的にも適任かもしれない。
でも、そんなまさか。
何も言えなかった。
ただただ、冗談だと笑って欲しかった。
けど、黄瀬も何も言わないまま。
宇宙人だとか、バカじゃねぇの。
無性に笑いたくなった。


その年の冬、黄瀬は地球を後にした。

separate
(光の速さとか、)

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ほしのこえパロ^^
書いてる私が一番楽しかったですww
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