彼が笑った。

理由はよくわからない。
何かについて一緒に話していたその中で、ふっとこぼした笑み。
ものすごい衝撃だった。
その瞬間だけ時間が止まったような気までしたぐらいに。
出会ってからというもの、元々愛想がない様子の彼が見せる表情と言えば、いつも堅い無表情ばかりで。
別に、それはさして気にすることでも無かったし、彼はそういう性格なんだろうと思っていた。
だから話しかけても真顔のまま返事を返してきたり、そっぽを向いたりしていても、変に思うことも無かったのだ。
そんな中での、笑顔。
思わず手に持っていた箸を落としそうになった。
初めて目にするその笑みは、驚くほど柔らかく優しいもので。
普段の彼からは全く想像がつかない。
こんな顔もできるのか。
そんなことを思いながらじっと見つめていると、笑顔が眉を寄せた不機嫌そうな物に変わる。

「何をじろじろ見ているのだよ」

どうやら思っていたより長い間固まっていたらしい。
怒らせてしまった。
そう分かってはいるものの、正直過ぎる口は本心を声にしていく。

「いや、真ちゃんの笑顔が綺麗過ぎて見とれてた」

へらりと笑いながらそう告げる。
きっとまた怒るかな。
それとも呆れられるかな。
しかし、頭の中に浮かんだ二択はどちらも裏切られることになった。

「……っ、」

何か信じられない物でも見たかのように目を見開いて、口元を押さえる彼。
その頬は真っ赤で。

「し、真ちゃん…?」

再び見たことのない顔を見せる彼に戸惑いの声しか上げることが出来ない。
顔を隠そうとしているのか、ふいっと横を向いた彼が口を開く。

「ば、馬鹿なことを言うな…!!」

その言葉に。
その表情に。
何かが始まる音が聞こえた。

プロローグ
(きっとそれがきっかけ)

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恋の始まり。
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