夏休みの最終日。
今年は休日の関係でそうではなくなってしまったけれど、この日は昔から決まった人としか過ごして来なかった。
長期休暇の最後の日なんて、周りの友人達は溜めに溜めた宿題に追われているか、明日から始まる日常の前に思いきり非日常を謳歌しているかの二択。
誰も自分の誕生日をわざわざ祝いにくることなんてなかった。
別にそのことに対して不満は持っていなかったし、その分家族や幼なじみが盛大過ぎる程に祝ってくれていた。
だから、それが当たり前で。
きっとこの先もそういう風に過ごすのだろう。
どこかでそう確信していた。
けれど。

「あ、青峰っち」

今年の8月31日、目の前には家族とも幼なじみとも違う、チームメイトが立っている。

夏休み明けにある実力テストのために、ここ一週間は部活もなく、正直暇を持て余していた。
ふらりとストバスに出たりもしていたのだが、今日の天気はあいにくの雨。
することもなく家でぼーっとしていた所に訪れたのが黄瀬だったのだ。
けれども黄瀬が家を訪ねてくる理由が見当たらない。
何か急な連絡があるならメールで済む話だし、まさかこんな悪天候の中1on1に誘いにきた訳ではないだろう。
じゃあ、一体どうしたのか。
その疑問をそのまま口にしてみる。

「いきなりどうしたんだよ」

問えば、黄瀬は一瞬肩を震わせて、迷ったように視線を逸らす。

「いや…えっと、あの」

先程までの勢いはどこへやら、急に口ごもり始める。
何なんだ。

「用が無いんなら閉めるぞ」
「ちょ!!待って待って!!」

わかったっス、言うから!、と必死にTシャツの裾を引っ張ってくる黄瀬。
仕方なく向き直ってやると、黄瀬は一つ深呼吸をしてから口を開いた。

「お誕生日おめでとう、青峰っち」

毎年毎年、その言葉をかけられるのは決まった人だった。
でも今年の最初は、この涙目になってるチームメイト。
どれだけ緊張してるんだか。
けれど、そんな風になってまで伝えられた言葉が、なんだかくすぐったいくらいに嬉しかったのも事実で。

「…って言いたかっただけなんス!!じゃ、またね青峰っち!!」
「あっ、オイ!!」

羞恥に耐えきれなくなったのか、こちらの呼び掛けに応じることなく、走っていってしまった。
言い逃げだなんて、卑怯だ。

「ちくしょ…」

この火照った頬をどうしたらいいのか。
新学期になったら、嫌になるくらいに甘やかしてやろう。
そんな決心を思いながら、思わぬサプライズに一人口元が緩んだ。

8.31
(やっぱり、うれしいもんだな)

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青峰お誕生日話でした^^


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