どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
俺は背中に抱えた男を背負い直しながら考えた。
土方十四郎。
それがコイツの名前だ。……多分。
俺はいつも土方をふざけた呼び方ばかりしていたからはっきり言って自信がない。
土方だって俺のことを坂田とも、ましてや銀時だとも呼んだことはない。
呼ばれたいとも思わないが。
この状況になったのにはある事情がある。
話は数十分ほど前に遡る。
その日、ちょうど銀時は臨時収入が入ったため、呑み屋へ行っていた。
それで浮かれていたからか、いつもは通らない道を通ってしまったのだ。
それが、いけなかったのか。
ある路地裏を通りがかったとき、銀時は異様な匂いを嗅いだ。酔いが一気に醒め、内心舌打ちをした。
血の匂い。
銀時は腰に差してあった木刀に手をかけた。
足音も気配も消し、向こうの気配を探る。
血の匂いが近づくにつれきつくなっていく。
血溜まりの中にだれかが立っているのが見える。
もう少しで唯一立っている人物が見える、というところで向こうの殺気が爆発し、すごいスピードで鈍く光る刃が見え、間一髪で木刀で受け止めた。
「……っとあぶねえな」
「…てめえは…」
暗闇の中から見覚えのある顔が血塗れになって出てきた。銀時は眉をひそめた。血にではない。人物に対してだ。
「天下の真選組の副長さんがこんなとこで何やってんの?仕事ですかコノヤローずいぶん派手な仕事で」
嫌みたっぷりに言うと少し収まったかと思われた殺気が膨れ上がった。
「……てめえもああされたいか」
「うわっ、やくざだよこの人!一般人に脅しだよ!」
「うるせえ」
思ったより機嫌が悪いようだ。本当に斬られそうな雰囲気である。
「………わかってんだ」
土方がおもむろにぽつりと呟いた。銀時はあえて先を促さなかった。彼の独白のようにも感じたからだ。
「これが俺の自己満だってことくらい、わかってんだ」
銀時は改めて土方の向こう側にある塊に目を向けた。
そこに転がっているのは、真選組隊士の制服を来た男たち。銀時も感づいてはいた、どうして一人で隊服姿でいたのか。どうして、そんなやりきれない顔をするのか。
冷血そうに見えるこの男も、実は仲間のために命さえも投げ出してしまうような男なのだ。
仲間を斬った。
銀時にとってはただそれだけのこと。
土方にとっても、
「俺にとっても…ただ裏切り者を始末した、ってだけなのにな」
自嘲気味の言葉にまだ何か続きそうだったが、銀時は一つため息をついた。
「それがオメーの仕事なんだろ」
月明かりの下、土方がこちらに顔を向けた。不健康なほどに白い顔に真っ赤な血がつき、
──綺麗だった。
「オメー自身がこの仕事にどう思ってんだか知らねえが…」
ゴリラを護んのがオメーの仕事なんだろ。
そう言った瞬間、土方の頬に一筋の光の筋が流れて見えた。
「万事屋、俺は」
「オメーの懺悔なんざァ聞く気はねェよ」
土方の話を切り、銀時は力を抜けよ、と促した。
「ただ、その怪我なんとかしたほうがいいんじゃ…ってオイ!」
腹部から流れ出ている血を指摘する前に身体が倒れかけ、慌てて銀時は腕で支えた。
そしてあることに気づく。
彼はこんなに細かったか。
土方とはなんやかんやとっつかみ合いをしたことがあり、その時には自分と同じくらいの体格に違和感は感じなかった。だが。
今の彼はどうだろう。
明らかに肩が前よりも華奢になっている。
なんだかいたたまれない気持ちになり、土方を背中に担ぐと、銀時は歩き出した。
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