「土方さァん、ほんとに奴ら来るんですかい」
そう緊張感もない声を上げたのは沖田だった。土方は一言うるせえ、と言ったきり茂みから山崎が特定した宿を見張っている。
「来ないなら来ないで山崎をシメるだけだ」
「勘弁してやってくださいよ副長。あいつだって頑張ってんすよ」
そうフォローしたのは原田であった。そういや山崎とは仲が良かったか、などとくだらないことを考えていた時だった。沖田が姿勢を正した。
「土方さん」
「……わかってらァ」
一人の男がそそくさと宿の中へ入っていった。そしてもう一人、二人と入って行く。どうやらクロのようだ。
「山崎」
無線で呼びかけると山崎は準備いいですよ、と余裕そうな声で言った。見ると沖田も原田もその他の隊士も頷いて見せた。
「まず俺たちが宿へ入り確認する。合図をしたら突入しろ」
隊士たちに無線で命令すると一斉に短い返事が返ってくる。土方たちが立つと、宿の周りに隠れていた隊士たちが準備のため少し動いた。その中に、何かを見たような気がした。
(ーー…?)
不思議に思ったが、すぐに土方は宿の中へと入った。原田が宿主に確認を取り、部屋を特定した。短く頷くと、静かに移動して部屋の周りを固める。そして一つ息を吸うと、
「突入!」
雄々しい叫びとともに扉を蹴破った。男たちは慌てたように刀を取り出し出口である土方たちの方へと駆け出した。
「一人残らず捕まえろ!」
命令すると返事が返ってくる。そして宿主が何事かと部屋へ近寄ってくるのが見えた。
「おいアンタ、避難してろ!」
そう警告し、背を向けた瞬間ーー、
「ーーっ!?」
殺気を感じ、とっさに振り返ると腕に痛みを感じた。
(しまった、宿主までがグルだったか!)
宿主に気を取られているうちに後ろから浪士が迫っていたのに少し気がつくのが遅かった。
それなりの痛みを覚悟して刀を振るおうとした瞬間、視界に信じ難いものが見えた。

ーー白い髪の毛に、ふざけた服装。赤い瞳。

一気に周りの数人が倒れた。紛れもない、いきなり目の前に現れたやつによるものだ。

「おいおい、なまってんじゃねぇの?副長さんよ」
「よ、万事屋…?」
「説明はあとだ、片付けんぞ」
なんでお前が、と聞く前に銀時は木刀を振るい走っていった。確かに、モタモタもしてられない。土方も気を取り直すと走っていった。
出来事の集結まではそう長くはかからなかった。パトカーに全員乗せると土方はようやく息をついた。沖田も山崎も安心したような表情をしている。
「まさか、旦那が出てくるとは思いやせんでしたよ」
「俺も出るつもりなかったんだけどな」
そこで言葉を切ると不意にこちらを見た。
「この副長さんがあまりにも危なっかしいもんで」
「はァ?」
いきなり自分が揶揄されるとは思わず、うわずった声を出してしまった。そしていつもの通りの応酬が繰り返される。結局沖田や山崎に止められるまでくだらない喧嘩を続けてた。
「…で、なんでてめえがここにいるんだ」
内心動揺する気持ちを抑えながら落ち着いた口調を心がけて聞くと、向こうはやはりやる気のない顔であっさりと「んー、おめえに用があって」と言った。思わず銜えていた煙草を落とすところであった。
ーーなんだか、嫌な予感がする。
「はァ?用ってなんだ」
「まァそれは二人っきりで話したいわけよ。ってことでお宅の副長さん借りてもいい?」
「はァ?」
いいわけねーだろ、と返そうとした瞬間、
「いいですぜ」
声を聞いただけでわかる、にやりと何か企んだ様子。
「おい、総悟」
「アンタ一人居なくなってもこいつらのことは出来ますんで、山崎が」
「ええええ、俺っすか!?」
「おい、俺は行くなんて…」
「土方さん、アンタ気付いてないんですか?」
存外真面目な声で問われた。何をだ、と問い返すことが何故かできなかった。
「さっさとすっきりしてきなせぇ」
その瞬間、バレていたのかと思わず眉間に皺を寄せた。
「……近藤さんには上手く伝えとけ、山崎」
「えええ、また俺っすか!?」
わめく山崎を無視して銀時に視線を向けた。向こうはずっとこちらを見ていたようだ。すぐに手を引き歩き出した。土方もそれは何故か拒まず、ぼーっとしてその手を見つめていた。
着いたのはやはり万事屋でソファに座らされた。何とも言えない空気に身じろぎすら出来ない土方は銀時の方を見るしかなかった。当の銀時は何故かこちらには視線は向けずに頭の後ろを掻いている。
「……おい、」
「悪かった」
銀時が勢いよく頭を下げた。土方は状況が掴めずその白い頭をぼんやりと見続けた。
「……あ?」
「だァかァらァ、悪かったって言ってんの!」
「……何がだ」
「こ、この前のことだよ、…むりやり悪かったな」
いきなり頭が追いつかず、もう一度下げられた頭を呆然と見つめた。きっと銀時は自分が嫌なのにむりやり致そうとしたことに謝っているのだろう。返す言葉が見当たらない。さて、どうしたものかと考えた末、土方は徐ろに白い毛玉に手を伸ばした。予想よりも柔らかい髪質にしばらく感触を味わう。
「……えと、土方くん…?」
「……気にしてねえ」
気にしていない、というのは嘘であった。実際いつ会うかわからない不安はあったが、出来事に対して怒りを覚えていたわけではない。銀時が考えているような感情は土方の中にはなかった。一瞬黙り込んだ銀時はおもむろに頭を上げ行き場のなくなった手を力強く掴まれた。
「…嫌じゃ、なかったのか?」
「…心の準備ができなかっただけだ」
「じゃあ準備ができたらいいのか?」
さらにぎゅっと掴んだ手は少し汗ばんでいた。あぁ、こいつでも緊張するのかと何となく上の空で考えていたらその手を更に引かれた。
「うわっ」
「なァ」
肩を引き込まれ体温が触れた。そこでようやく抱きしめられたと気付いた。
「どうやら好きみたいだわ」
「……あァ?」
思わず顔を上げると銀時の顔が思ったよりも近くにあり、どきりとして顔をそむけようとした。
「悪ィけど、」
顎を掴まれ、下げることも出来なかった土方の額に温かいものが触れた。
「これから俺に惚れてもらうわ」

そう言った奴の表情は強気な口調とは裏腹に情けない顔をしていた。
「なんつー顔してんだ」
銀時の胸板を押し、距離をとった。そして小さく笑う。


「出来るもんならやってみろよ」





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すごい前から長い時間をかけて書いていたものです。
グダグダになってしまいました…、
始まってもなくてすいません。




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