顳に銃口




こんなモノ、使うべきではなかった。
土方は荒い息を抑えながら、震えた右手をゆっくりと下ろした。
足元に広がる夥しい血が嫌でも視界に入る。

ああやはり、こんなモノ使うべきではなかったのだ。
口から出そうになるため息を呑み込んで携帯を取り出す。電話帳の中から山崎の名前を見つけ出しコールする。

「はい」
「…実験終了」
「、了解、すぐ迎えに行きます」

彼が動揺し、一瞬呑み込んだ言葉は何だったのだろうか。土方は瞑目した。

それから十五分後に山崎は数人の監察と来た。いつもの隊服よりも目立たなさに重点を置いた監察の特殊服であった。
異様なくらい真っ黒な男たちは息絶えた者たちを無機物を見るように観察した。それを土方はまた無表情に見詰めていた。

「副長」
「…なんだ」
「どうでしたか」
「そうだな、リボルバーを回して撃つまでが時間がかかる。そして煩いのも難点だ。…だが佐々木が好むのもわからなくはねェな」

事務的にそう答え、手の中にある僅か20cmほどの回転式拳銃を差し出した。山崎が改良のしがいがありますね、と受け取る。
真選組に銃の導入とは、幕臣もなかなかイカれてやがる、と自嘲ぎみに笑う土方に山崎は複雑な顔でえぇ、とだけ答えた。こんなものを持っても、ますます攘夷浪士らの反発が大きくなるだけである。

「此処は任せた。俺は先に帰る」
「わかりました、車持ってきます」
「いや、歩きでいい」

車を断り足早に歩き出す。何となく足が知らず知らず進んでいくようだった。

「……相変わらず派手にやってんねェ」

さもバカにしたようなだるい声が意識を一瞬で鮮明にさせる。やはり、見ていたのか。先程溜め込んだため息を一気に吐き出した。

「見てやがったのか」
「んー?まァ、ちょっとね」

別に覗く気はなかった、と軽々しく目の前の男は言ったが実際見られた以上は何かしら対処をしなくてはいけなくて。
土方は内心煩わしいと思いながらも男と向き合った。こいつと会うと本当にろくなことが無い。経験からしても、この胸のざわめきからしても。

「さっき見たことは他言無用だ。……言ったらどうなるか、分かってんだろうな」
「わぁってるよ、んなおっかねえ顔すんなよ」

顔は元からだ、と口を開いた瞬間。

「ーーっ!」
「……真選組副長ともあろうお方が、こんなに隙見せていいわけ?」

ひたり、と冷たい手がこめかみに当てられていた。寸分の違いなく。まるで、銃口をこめかみに突きつけられているようだ。暗闇の中なのに、赤い瞳がじっと見つめてくるのが痛いほどにわかる。

「……てめえ、だから…だろ」

お前みたいな殺気どころか気配消すようなやつじゃなけりゃ、俺だってこんなヘマはしない。
……と、そこまで話す元気もなく、ふう、とため息をついた。

「ーーお前さあ、ほんとそれ天然?」
「はあ?それってなんだ」
「ああわかった、天然なのねハイハイ」
「んだてめえ、」

何を言いたいんだ、と問い詰めようとしたところで手首をつかまれて強い力で引かれた。グングンと歩いていく銀時に思わずついて行くしかなかった。

「ちょ、どこ行くつもりだ」
「あのさあ、他意がなくても“お前には隙を見せられる”なんて、軽々しく言うなよ」

ーー無茶苦茶に抱きたくなるだろうが。

は、と吐息のような呟きが漏れる。振り向いた銀時の顔は予想以上に余裕がなかった。そんな顔をさせるのも、案外悪い気はしない。土方はにやりと口の端を歪めて笑った。

「……は、上等だ」

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めっっっっっっちゃ書きかけで放置してたのを直してみました。
また上げられたらあげたいなと……思っては……います……。

2017·12·31





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