下らねェ、と感情の読めない声が意識を覚醒させた。さっきまでかいていた汗が急激に冷えていくのを感じる。 彼はこちらに見向きもせず近くに落ちていたスカーフを拾った。 そのスカーフを身につける姿を声も掛けられず見ていると、冷たい視線が刺さる。 「……別に怒ってるわけじゃねえ」 聞こうとしていたことを先に答えられ、またしも口を開くタイミングを失った。 「ただ、俺もお前も大概だと思っただけだ」 「は、そうかもな」 そこでようやく声が出せた。掠れて彼に届いたのかどうかはわからないが、坂田の思考は話し出したことで一気に落ち着いた。 「バカみたいだろ、そうは思わねえか」 「バカみたい、ねェ…」 「俺はこんなことして、下らねェとさえ思うさ」 その口調には嘲るような、軽蔑したような、とにく否定的な響きがあった。彼の口許は笑ったように歪んでいたが、決して笑ってはいなかった。 「テメーは俺がよかったわけでも、俺はテメーがよかったわけでもない。そうだろ?」 そこで初めて土方は不敵そうないつもの笑みを浮かべた。 確かに、お互いがお互いを必要として、求め合ったわけでは決してない。俺は誰かの代わりにこいつを、こいつは誰かの代わりに俺を。 「そうだな」 俺らは誰かの代用品でしかないのだ。 代用品 誰かの代わりでいい 本気じゃない距離感が好き |