気に食わねェ、
昔から、気に食わねェ野郎だった。大切なものをかっさらっては、涼しい顔でいやがる。殺してやりたい、と思うことなど常だ。
──だがそれでも、こんなに怒りに激しく感情を突き動かされたことがあっただろうか。
アイツの顔を見た途端、否、アイツが屯所から出ようとしているのを見た途端、刀を振りかざしていた。
「……総悟」
男の唇が振動し、沖田の名前を呼んだ。そこで沖田は土方の首筋に刀を押し付けている状態で止まっていることに気付いた。──…嗚呼このまま切り捨ててしまえば良かった。
「…土方さん」
アンタ、どこ行くつもりでィ、と問うと土方は煙草を買いに行くだけだ、と即答した。見事なまでの、即答。
思わず、笑ってしまう。
「ハッ、煙草買いに行くのにわざわざ風呂に入るんですかィ」
「風呂上がりに吸おうと思ったら切れてたんだよ」
まるで用意していたかのような完璧な答え。本当に腹が立つ。思い通りにいかない苛立ちに右手に力を込めてしまう。
カチャリ、と土方の首に突きつけられた刀が音を立てる。
「どうやらカマかけても無駄のようですねィ」
「………」
そこで初めて土方は答えなかった。今は暗くてよく見えない瞳が、こちらをじっと見ている。
「行くほどの相手ですかィ」
「…………」
「真選組よりも、大事なんですかィ」
はっ、と嘲笑に似た乾いた声が響く。土方の声だった。
「真選組より大事なものなんざ、あるわけねーだろ」
「じゃあなんで…」
行くんですか、と問うても土方は煙草だと言い張る。そしてだんだん自分の気持ちが冷えていくのがわかった。ああ、もうこの人は。
「…アンタは煙草しかねーんですか」
結局折れたのは俺で。
それに驚いたように奴は片眉をぴくりとあげた。
「……土方さん」
「、なんだ」
刀は下ろさなかった。逆にまた更に食い込ませるように力を入れる。これでも尚、この男は恐怖を顔に出さない。俺が斬らないと、思っている。
「アンタ俺を見くびってやいませんかィ」
「そういうお前こそ、…俺を過信してねェか」
「なに…」
過信、だと。俺が、この男に?
「俺が斬らねェと高をくくってるんでしょう」
「斬っても俺は死なねェと思ってるんだろ」
無表情でそう言った土方に、思わず舌打ちをしそうになった。
だから、
だから嫌いなのだ。何もかも見透かしたような、スカした面が気に食わねえ。
「……死ね土方」
やっとのことで絞り出した言葉はいつもの言葉。
「は、お前が死ね」
いつも通りの応酬。
やはりアンタと俺はなかなか変われないわけで。
武州にいたときから、全く変わっていない。退化すらした気がする。
あの頃と唯一違うのは、
お互いの優先順位か。
それも、仕方がない。
刀を下ろし、背を向けた。向こうも何も言わず歩き出したようだ。あの男のところへ行くのか。
俺はそう考えて堪らず目を閉じた。
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(銀)土←沖でした。
これでも銀土と言い張る
きっとここまで沖田が土方に執着することはないけどな
ちょっと語りたいことあるけど、Memoの方に書きます…