ずっと、自分で不思議に思っていたのだ。
あの胸騒ぎの理由を。
まさか俺は──…。
そこで銀時は首を振り考えることをやめた。知らない振りなら得意である。
「あーあれだ、同情とか、そうやつだ、うんそうに決まってる、同情だよ同情」
意味のわからないことを呟き終わったあと、はあ、と息をつき全く頭に入らないジャンプを置いた。
「銀ちゃんっ」
「うわっ」
背中に衝撃を感じ、振り返った。まあ振り返らなくても誰だかはわかっているのだが。
「か、神楽ちゃん…俺死ぬ…」
「銀ちゃん元気ないネ、どうしたアルか」
「いや、銀さんはいつもこんな感じですよ…」
「変な嘘つくんじゃねェヨ」
「…………」
辛辣な言葉に銀時は黙り込んだ。それを見かねた神楽は仕方ないアルね、と呟いた。
「銀ちゃん外行って気分転換してこいヨ」
「いや俺は…」
「行ってこいヨ」
こうして銀時は万事屋から追い出されてしまった。(自分の家なのに!と叫んだが全く相手にされなかった。)
「参ったなこりゃ…」
これはしばらく帰れなさそうだ。その時間をどうやって過ごそうか。
(あ、そうだ)
銀時はある場所が気になって、歩き出した。
「───おい、大丈夫か」
銀時が思わずそう訊いてしまった相手は、大丈夫なわけあるか、と苦し紛れに答えた。
「なんで、てめぇ…ここに」
「いや、ぶらりと散歩に」
「散歩で…こんな、っ、とこ来んのかよ、てめえは」
「あー喋んな、喋んな」
毒回るぞ、とは言わなかった。小刻みに土方の体が震えている。脇腹からも血が流れていて、呼吸も荒い。
「盛られたのか」
「幕府の、っ…お偉いさんに、な」
この前殺った奴らと繋がってたらしい。そう言おうと思ったが土方は口をつぐんだ。こいつはこの前、と言っても知らないし、話す気力も正直無かった。
怪しいとは思っていたのだ、いきなり幕僚が呼び出してくるなど。注がれるままに酒を口にした瞬間、本能が危険を察知し、口を離したが少し遅かったらしい。体が痺れるような、感覚がなくなるような感じは、神経系の毒か。だが逆に口の中が渇いてきたのと同時に目眩に襲われ、全身に苦痛が走った。
何人かの攘夷浪士が土方を始末しようと真選組を疎ましく思っていた幕僚と手を組んだらしかった。
意識が飛びそうな中で何とか敵を斬りつけ、命からがらにここまでやってきたわけだが。
運か不運か、なぜかこいつが現れ、俺の手当てをしていた。
「どのくらい、保つ」
「……一、時間てとこだな」
銀時はその言葉はあまり信用できないな、と思った。口は動くが、虫の息に近い。
「おい、もう少し頑張れ、どうせあの地味な奴呼んだんだろ」
かろうじて頷く。山崎はやけに動揺したような声で今すぐ向かう、と電話を切った。だがまだ着かないだろう。
「──一応止血はした」
万事屋が妙に真面目な声で言ったから笑おうとしたが、口角が上がらなかった。
「死ぬなよ」
「はっ…誰が…」
そう言うと銀時は痛そうに眉を寄せて、俺の顔に近づいた。何をする、と聞く前に銀時の唇が俺の唇に押し付けられた。
感覚が無くなってくる中、暖かいものを感じた。なぜか嫌とは思わなかった。少し安心した気持ちになり、意識が遠退いていくのがわかる。
だが最後に聞きたかった。
このキスはいったい、どう意味のなのか、
同情か、それとも…。
目の前が暗くなった。
土方が気を失ったあと、ゆっくりと唇を離した。
やってしまった。
土方に、キスをしてしまった。
土方はゆっくりと呼吸をして眠っているようだった。
何だか安心する。
この出来事を土方は目を覚ました時、思い出すだろうか。
──思い出さなくて良い、と思った。
数時間前に思っていた(厳密に言えば思い込もうとしていた)同情は、どこかへ消えていた。
たった一つ、愛しい、という感情を残して。
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最後だけ甘くなってしまった…
はずかしっ