それは、全くの偶然だった。


めったにない臨時収入が手に入ったのも、気持ち良く酔い、いつもとは違う道を通ってしまったのも、本当に偶然だったのだ。



鼻歌を歌いながらよたよたと歩いていた銀時だったが、ある路地裏を通ったところで異様な臭いを嗅いだ。

昔から嗅ぎ慣れてしまった、鉄の臭い。
銀時は一気に酔いが醒めてしまった。



(──ったく、嫌な臭い嗅いじまった。誰だ、こんなとこで…)


銀時はその場から離れようと踵を返したが、その時聞こえてきた声に立ち止まってしまった。


「…ちょう、副長しっかりしてください」
「……かって、らァ」


どこかで聞いたことのあるような無いような声が、副長、と呼んでいた。
そしてそれに答える声は、どこか印象が違っていたが、あの鬼の副長と言われる土方だとわかった。


どういうことだ、と銀時は胸騒ぎがし、そっと路地裏を覗き込むと、血溜まりと死体の中に二人の男がいた。


一人は土方。どうやら怪我をしているようだった。
そしてもう一人はあの地味な監察。様子から見ると、傷の手当てをしているらしい。


「気ィ失わんでくださいよ」
「……っ、上等だ」


そう言うと土方は小さく呻き声を上げた。


「てめっ、山崎…麻酔くらい、ねえのか」
「ありませんよ、そんなもの。だから我慢しててください」


山崎(そうだ、そんな名だった)の手に針が見えた。どうやら縫合しているようだ。


「……っ、はっ」
「終わりましたよ、寝ていいですよ」

山崎がそう言うと土方は前のめりにゆっくりと崩れ落ちた。銀時は思わず足を踏み出しそうになり、踏みとどまった。


どうして俺は今、あいつの元へ走っていこうと思ったんだ?


なぜこんなにも胸騒ぎがしたのだろうか。


銀時がそう考えていると、スキンヘッドのゴツい男が車で駆けつけ、山崎と二人で土方を担ぎ車に乗せた。

土方を乗せた車は、ゆっくりと発進しやがて見えなくなった。
それを陰から見送りながら、銀時はさっきまでの焦燥の意味を考えていた。












それから数日後。




「あ」
「──…あ?」


銀時は土方とばったり出くわした。銀時は思わず声を出し、ようやく向こうは気がついたようだ。


「副長さんじゃん」
「それがどうした天パ」
「一言目が天パってやめてくんない!?」


銀時は自分のコンプレックスである頭を隠すように抱えた。


「天パ馬鹿にすんなよ、てめーどうせマヨネーズで髪の毛直してんだろ」
「んなわけあるかァァァァ!!」


土方はいつものごとく鯉口を斬った。


「危ねえよ、町中で刀抜くんじゃねェ!」
「うるせえ、マヨネーズ馬鹿にしやがって!」


土方が抜こうとしたのを上から押さえつけた。土方のこめかみに青筋が浮かんだ。


「てめー、離しやがれ!!」
「離したら斬るだろうが!!」


ギャーギャーと騒いでいると、不意に土方が眉をひそめた。


「……っ、ちっ」


舌打ちをすると刀から手を離し、煙草を取り出した。一本取り出してくわえると、これまたマヨネーズ型のライターで火をつけた。


「お?いきなりなしたのよ」
「別になんともねえよ」


土方はこちらを見ずにそう言うと足早にその場を去った。


「……なんだあ?」


銀時は頭をかいて一人そう呟いた。














「──…っ、はぁっ」


土方は人気のない路地裏に入り、ズルズルと壁に寄りかかった。


「ちくしょ、傷が開いたか…っ」


脇腹に激痛を感じ、万事屋とのやりとりを切り上げて逃げてきたのだった。
また山崎でも呼ぶか、と携帯を出した瞬間、携帯が震えた。見覚えのある番号だった。


土方はため息をつくと痛みを圧し殺し携帯を耳に当てた。



「……はい、土方です」






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