そんなに、死にたいか。
そう言うと土方はゆっくりと刀を抜き、何気もなく構えた。冷たく、感情のない目が俺を捉えた。
「オメーに殺されんのも悪かねェな」
「戯れ言も大概にしとけ」
もうすぐそばまで来ていた土方は、やはり何の感情も映していなかった。
「───……夢、か」
銀時はため息を吐きながら格子の外を見た。まだ外は暗い。寝れるはずなのに、どうにもそういう気にはなれなかった。
ずいぶん趣味の悪い夢を見た、と毒づきそうになった。自分があの土方に殺される、否、粛清される夢、だ。
まあ、斬られる心当たりならたくさんある。いつも二言目には斬る、という男であるから心当たりもたくさんあろう。
なぜ俺が土方に斬られる夢を見たのか。土方という男は、自分にとってどんなやつなのか、そう聞かれたらただの喧嘩相手というしかない。
はず、なのに。
あの土方の目で、興奮してしまった自分がそこにいた。
「やべえ…」
夜はまだ明けそうになかった。
「旦那じゃありやせんか」
そう声を掛けられたのは団子屋だった。沖田が何気もなく隣に座った。
「おぅ、夜神総一郎くん」
「総悟です、旦那」
「で、総一郎くん、こんなとこで何してんの?」
「見てわかる通り絶賛仕事中ですぜ」
「してねェだろーが!!こんなとこでサボりやがって!」
そう怒鳴り入ってきたのは土方だった。
「土方さん、何してんですか仕事してくだせェよ」
「オメーがな!!」
相変わらずの応酬で銀時はぼんやりと土方を見つめた。
鋭い目は夢よりも青く、深い色をしていて、想像よりも細い体をしていた。
「……あ?なんだテメエ」
「や、何もねェけど」
今日はあまり喧嘩をする気にはなれなかった。その様子を見て感じたのか、土方はふと沖田に視線を戻した。
「最近、辻斬りが出てる。ガキども夜に歩かせんなよ」
「わかってらァ」
「余計なことすんじゃねェよ」
「……わかってらァ」
女子供にただ単に優しいのか、暗に自分に言っているのかはわからないが、いつも曖昧な優しさを残していく。
もうその時には辻斬りのことなんて忘れてしまっていた。
まだ暗くなりきっていない時間帯だったから少し油断していた。
銀時はいつの間にか数人の真剣を持った男たちに囲まれていた。
「なるほど、辻斬りね」
銀時は呟くとゆっくりと木刀を握りしめ、あの日からもやもやしていた気持ちを振り切るように抜いた。
「そこで何してる」
その声を聞いた瞬間、奇妙な既視感を感じた。
「……よォ」
なるべくゆっくりと振り向き、何事もないかのように挨拶をすると、無表情の土方がいた。
「辻斬り、ってこいつらのこと?」
ごめん、手柄取っちゃって、とふざけた口調で言うと、少し目を見開いて小さく息を吐き出したのがわかった。
「余計なことすんじゃねェ、と忠告したはずだぞ、俺は」
「正当防衛、ってやつだよ」
「──…だったら」
「どうしてこんなとこにいた。誰も人の通らないような。─…だろ?」
質問を先回りして当てると、心底不快だ、という顔をした土方が舌打ちをする。どうやら本当らしい。
「さあ…気分で」
「バカにしてんのか」
俺は肩を竦め、疑り深い副長さんを見つめた。さて、これはバカにしてんのか、と言われるのだろうか。
「オメーに会いたかったから」
「…どうやら死にてェらしいな」
そう言われて、あ、と気付く。これはあの夢のようではないか、と。
「オメー夢でも言うこと変わんねーのな」
「ふざけたことばっか抜かしてると、斬るぞ」
「いいさ、それも悪かねェ」
斬りたくなったときに、お前が俺を邪魔だと思ったら、迷いなく斬ればいいさ。
「は、熱でもあんのかテメー」
確かに、あの夢を見てからずっと熱に浮かされてる、という感覚だ。もしかしたら、
「俺、オメーになら殺されてもいい」
「意味わかんねェ、一遍死んどけ」
つか、斬るぞ、と土方が冗談めかした悪い顔で腰の刀に手をかけた。
口の中から覗く赤い舌が妖艶で。月明かりに照らされた顔が美しく歪む。それだけで頭がクラクラしそうだ。
あぁ、これではまるで、
****************
またまたぼんやり作品に…^^;
おかしいな
銀さんがもやもやしてる話でした。