雨は温かかった。
その温かさに目を閉じ、土方は一人思考に沈む。
別に、考えることなど無いのだけど。
土方は橋の手すりに腕をのせ、ゆっくりと前に体重を預けた。
ふいに、鼻の奥に鉄臭さを感じた。
昨日も嗅いだ、きっと一生離れられることのできない臭い。
土方はこの臭いに何も感じなくなったのはいつだろうか、と考えた。
近藤さんたちと真選組を作ったときには、まだ自分は人間らしかったはずだ。
鬼の副長と呼ばれるようになったのは確か──…
「何、やってるアルか」
ふと顔に当たる水滴が無くなったかと思えば、聞き覚えのあるエセ中国語。
「チャイナか」
「こんなとこで何してるアルか」
万事屋にいる夜兎という天人の子どもだ。
身体は小さいが、力は人間離れしている。
ゆっくりと目を開け、少女を見た。
「お前こそなにしてんだ」
「銀ちゃんのお使いネ」
そう言って酢こんぶといちご牛乳の入ったコンビニの袋を見せられた。
「お前らはのんきでいいな」
「羨ましいアルか」
「別に」
チャイナは少し自慢げに胸を張った。
「けど銀ちゃん、元気ないアル」
「…………」
「昨日の昼までは普通だったネ」
土方は黙りこんだ。銀時が元気がない理由は、完全に自分にあると自覚していた。
実は昨日、銀時と会う約束をしていたのだ。
別に、銀時と特別な関係ではないが、最近は二人で呑みに行くことが多かった。お互い、それを楽しみにしてたのも知っていた。
だが、昨日、土方は銀時に会わなかった。
突然起きた攘夷浪士の捕り物で。
土方は仕事一筋の男だと自分で自覚している。……つもりだ。
だから間違っても銀時を優先することなどない。
それは銀時も重々承知しているのはわかっている。
……だが、なんだろう、この罪悪感のようなものは。
案外、自分が思っていたよりも銀時と呑むのを楽しみにしていたようだ。
思わず自嘲的な笑みを浮かべた。
「はい」
「……あ?」
さっきの袋を差し出される。少女を見ると、彼女はくちゃくちゃと酢こんぶを食べていた。
「これ銀ちゃんに」
「…いや、何で俺が」
「私、これから遊ぶ用事あるネ、代わりに持ってくアル」
無理矢理持たされ、腕を引っ張った。
「うわっ」
「早く行くネ」
そう急かされ、土方は仕方なく万事屋に歩き出した。
万事屋のチャイムが鳴った。誰だろう。
ババアはチャイムなど鳴らさずにドアを叩くし、神楽も勝手に入ってくる。
依頼人だろうか。
だが残念だが今はそんな気分では無かった。
昨日のせいだろうか。
昨日呑む約束をした土方が仕事で来なかった。
別に来なかったことに怒っているわけではない。
だが、どうしようもなく胸がざわざわとする。
なんだろう…これは…
そう考えてる間にもチャイムは鳴り続けている。
銀時はため息をつき、玄関のドアを開けた。
「すんませーん、今日は休みで…」
「こんなふざけた仕事でも休みがあるたァ意外だな」
「は…?え…土方?」
「顔でも忘れたかアルツハイマー」
「いや、頭で判断しないでくれる!?」
いつものごとくつっこむと、土方は少し笑った。
そして袋を目の前に差し出した。
「……なにこれ」
「チャイナがお前に届けろって」
「あいつ…」
余計なような、ナイスなことをしてくれる。
「…昨日、捕り物あったって聞いたんだけど」
「あぁ」
「大丈夫…だったの」
土方は不意をつかれたような顔をした。
自分もビックリしていた。だが何かがストンと落ちてきた。
心配、だったのか。
俺は土方が心配だったのか、と納得した。
「──なぁ、土方」
触っても、いい?
「──あぁ」
銀時は手を伸ばしてみた。
濡れた身体は冷たそうだった。
肌に触れる
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書き直しというかデータが消えてしまい、新しく書きました(^^;)
銀さんが好きだって気づいて
土方さんはまだ気づいてない感じ。