手を伸ばせばすぐ届く距離にいた。
望みはしないが。
そう心の中で呟くと土方は銀色の頭を見つめた。規則正しい寝息を聞きながら、何となく穏やかな気持ちになっている自分がいる。──欲しいとは思わない。近くに居たいとも思わない。
だが。
「……てめーはてめーらしく生きりゃいいんだ」
だから無理に笑おうとしてくれんな、と自嘲しかけた瞬間、テーブルの上にあった手を掴まれた。
「なっ、てめ、」
起きてやがったのか、と気恥ずかしさから睨んでしまうと、申し訳なさそうな紅い瞳がちらりとこちらを見て時計へと視線が移った。
「んだてめーいきなり」
「ちょっ、ちょっと静かにして」
銀さん今すげー覚悟決めようとしてんだから、とやけに真面目な口調で言われる。それからブツブツと何かを呟きながら思考を巡らせている。
「…何だか知らねェが、さっさとしろ、俺は帰りてーんだよ」
「…土方」
「あ?」
「一つ、聞いてやる」
何をとも、何故とも聞くまでもなかった。ひゅっと息を吸い、激しくなった脈拍を押さえるように深呼吸したが、それでも焦り言葉が滑り出る。
「な、おま、誰から聞いた」
「んなこたァどうでもいいが、一つなら叶えてやらァ」
土方は混乱していた。まさかこいつが知っているとは思わなかったのだ。