流れ星には願わない | ナノ



「青葉城西、へえ、強いんですね」

田中さんの隣で雑誌を読みながらバスに揺られる。日向くんは吐いて休憩をとった後、わたしの肩に頭を乗せて眠っているかのように唸っている。つっきーに馬鹿は乗り物酔いしないって言うもんね、なんて言われたが、そんなことわざも慣用句もわたしは一切聞いたことがないけどと言うと山口くんが笑っていた。つっきーは冗談で言ったつもりだろうに。その山口くんを見るつっきーの冷たい目は本当に見ものだった。

「てかおなまえ、それ買ったの」
「はい、ルールブックも買って何回も読みましたよ」
「おお!さすがだな!」

がんばってるじゃねえか!そう言った田中さんはわたしにハイタッチを求める。ぱしん!と小気味良い音を立てたわたしの手はじんじん痛む。田中さんは裏表がなさそうだから好きだ。日向くんにも言えることだけど、何よりわいわいしていて楽しい。はしゃぐのは得意じゃないわたしも思わず楽しくなってしまう。それに、常にポジティブなのだ。一番見習いたいところはそこだ。

「2回触ったら、」
「ドリブル!」
「ネットに触れたら、」
「タッチネット!」
「さすがだなあお前えええ!」
「田中先輩のおかげです!」
「いい奴だおなまえ!」

ジュースおごってやる、な!そう言いながら田中さんはわたしの頭をこれでもかと言うほど撫で回す。わたしは大人しく撫でられながらも同じように揺れる日向くんの身体を少し支えてあげた。顔を上げると、ぱちりとみんなと目が合った。もしかしなくても、見られている。

「なんか動物園みたいな音がしたから振り返っちゃいましたよお」
「つっきーそれ誰のこと」

じろりと睨むつっきーを睨み返す。あ、と山口くんが声を上げる。

「おなまえちゃんって、動物に例えたらネコだよね」
「いや、ハリネズミだ」

お猿さんとハリネズミ、ぷっ。つっきーが笑う。自分のどこにハリネズミ要素があるのか分からない。つんつんしてるところはないし出っ歯でもない。あれ、そもそもハリネズミって出っ歯なのか。がたん、バスが止まる。いつの間にか着いていたようだ。

「まあ、一見ネコかもね」
「え、」
「中身はとげとげしいけど」
「おいおなまえ、」

見た目はネコのようにかわいくて少し気まぐれということなのだろう。そういうことにしておこう。ひとりで頷くわたしに、田中さんが耳打ちをする。耳打ちの内容に、わたしはにやりと口角をあげて立ち上がった。そして人差し指を伸ばしてわたしに話しかけているつっきーに向かい、それを突き立てる。

「まあ入部したてから比べたら性格もトゲがなくなって、」
「えい!」
「いてっ、いたっ、なんだよ!」
「ハリネズミの愛情表現!」
「いやそれ間違ってるって!」
「愛情だよ、愛情!」
「いいぞおなまえ!もっとやれ!」
「はい田中先輩!いや、田中師匠!」
「うおおお!もっと呼べ!」
「田中師匠田中師匠田中師匠!」

ちくちく!と言いながら突き続けるわたしにつっきーは身をよじる。このあとキャプテンさんから笑顔でうるさいよ、と一言注意されたのだが、それはそれは久しぶりに感じた恐ろしさだった。予防接種を受ける前のあの針を見たような、それが鉛筆のような太さだったときのような、そんな感じだった。きっとわたしの心の針も、こうやって人を脅かしていたのだろう。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -