流れ星には願わない | ナノ



土曜日、わたしは体育館の前にいた。特にバレーが好きなわけでも影山くんに気があるわけでもないのに、わざわざ制服に身を包みそこに赴いていた。ちょこんと扉から顔を出すと、ぱちんと坊主頭の男の人と目が合う。きらりと目を輝かせたその人が素早く近づいて来たかと思えば、彼はわたしの何メートルか前で立ち止まる。妙な距離感に首を傾げる。

「マネ志望がきた!」

大きな声に体育館にいたみんなが振り返る。影山くんに視線を送るが、彼もぱちりと目を見開いたままだ。

「それはよかった!」
「へ、え、か、かわいい」
「椅子用意する」
「うおっしゃ!やる気出る!」
「違うんです」

がっしりとした爽やかな人と色素の薄い綺麗な人とマネージャーさんが近づいてきて各々反応を示し、坊主頭の人はTシャツを脱いだ。ぎゃあぎゃあと叫ぶ彼らの声にわたしの否定の言葉はかき消される。もう一度影山くんを見ると、ぱちぱちと瞬きをしてからこっちに走って向かってくる。わたしはひらりと手を振る。

「来ないと思ってた」
「ちゃんと行くって言ったよ」

くすりと笑う。その様子を見ていたらしい坊主頭の人が、なんだ影山の彼女かと騒ぎ出す。そんなわけがないだろう。で有ったばかりだし、こういう人といると本当に自分に劣等感を感じてしまうから良くない。違いますとはっきり言ったわたしの言葉に坊主頭の人は、うおお!かわいいマネージャー来たぞ!とまた雄叫びを上げる。なんて忙しい人だ。違いますからと否定するが、彼の耳には届いていないようだった。

「なあ、みょうじ」
「うん」
「この試合勝ったら頼みがある」
「頼み、」

この試合を見に来ること以外に、何かあるというのか。相手のチームの強さも影山くんの上手さもポジションすらも知らないが、まあ、出会って一週間も経たないわたしに叶えられる頼みなど高が知れているだろう。

「いいよ、がんばって」

そう高をくくったわたしは快諾して影山くんに笑いかけた。マネージャーさんが椅子を持って来てくれる。ありがとうございます、お礼を言ってからそこに彼女と並んで座った。背の高い綺麗な人だ。潤んだ唇に大きな瞳、豊満な身体、今見ていた限りでは口数の少ないクールな振る舞い。素敵だなと思って少し見つめてしまった。理想の女性像だった。

「マネージャー希望じゃないのね」
「はい、そうです」
「なる気はないの」
「ありません」

きっぱり言い切るわたしに、彼女はそうなのと小さく相槌をうった。ぴーっ、とホイッスルが聞こえる。試合が始まるようだ。わたしはコートに視線を移す。

「でも、あなたは入ると思う」

このバレー部に。小さな声でそう言った彼女の言葉に、わたしは一瞬眉をしかめそうになった。何が嫌だというわけじゃないし、バレーが嫌いなわけでもない。だけど、どうも受け付けられないのだ。そもそも必死にがんばる彼らを何のためらいもなく応援できるのかと問われると、迷わずイエスと言えない自分がいるのだ。わたしはまだ吹っ切れているわけではないし、できるものならそういった必死な状況下におかれたくない。わたしはそんなに心の綺麗な女じゃないのだ。彼らの姿に、おそらく妬みすらおぼえてしまうだろう。

「ありえません」

でも、今日あなたはここに来た。マネージャーさんの言葉にわたしはこくりと頷いた。

「なんで来たのか、わからないんです」

ただ空っぽな毎日が辛くて、つまらなくて、馬鹿みたいに必死になれるモノのある人たちが羨ましくて。きゅっと手を握りしめる。言葉には決してしないこの思いを、ぎりりと奥歯で噛みしめた。ほろ苦いというより、まだ熟れていないこの思いはじわりとすっぱいような気がした。

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