流れ星には願わない | ナノ



退屈な話を繰り広げて無駄に笑う女子たちから抜け出すべく、自販機までジュースを買いに来た。ふと耳に入るボールの弾む音に辺りを見回すと、バレーをしている男の子たちを見つけた。わたしたちも、こうやって休み時間に練習したこともあった。なつかしい。思い出したくもない思い出に浸ってしまいそうになり、わたしは歩みを早めた。

「日向はなんでそんなに影山に張り合うの」

ぴくん、身体が揺れた。影山、っていうのは、もしかしなくても隣の席の彼のことだろう。思い出したくないというのは不適切かもしれない。思い出すと、どうにも悲しくなってしまう。自分の無力さに心が痛む。話題に上がっている彼、今日とても眠そうにしていた。わたしは自販機の前に、その眠そうに背中を丸めた後ろ姿を見つけた。

「眠そうだね」
「ん、ああ、」

あくびをしながらボタンを押した影山くんの背中に語りかける。

「日向は、」

聞こえてきた声に影山くんはぴくんと肩を揺らす。飲むヨーグルトを手に持ってその話に聞きいる彼の横で、わたしは何を飲もうか考える。バレーをしていた人たちの言葉が耳に入ってくるが、わたしが口出すことでは無い。彼らの問題に図々しく口を出そうとも思わない。いちごオレ、カフェオレ、ミックスジュース、ミルクティー、わたしはぐるりと一通りディスプレイを眺めてからボタンを押す。がたん、飲み物が落ちてくる。

「今は、最強の仲間だろ」

聞こえてくる言葉を、内心鼻で笑った。ふうん、仲間。会って間もないらしい彼らが、そんなに簡単に仲間と呼べるものになれるのだろうか。

「影山くん、」

彼は黙ったままストローを紙パックに突き立てて、口に含んだ。仲間って同じチームになったからなるものじゃなくて、ある程度の信頼関係が築かれたからこそ呼べる関係性のことなのではないのか。あらかじめ与えられた名称が事実を生むことがあるかもしれないが、お互い人間でお互いに思うところがあるのだから、そう簡単に一朝一夕で仲間意識が芽生えるものじゃないと思うのだ。ましてやこれまでがんばってきた経緯のある者ほどそうだ。わたしも野菜ジュースの紙パックにストローを刺して、一口含んだ。

「みょうじ、」
「ん、」
「戻るか」

わたしはこくんと頷いた。先ほどより少し小さく見えたその背中をぽん、と叩くと影山くんは目を丸くしてから少しだけ笑った。教室に戻るまでの間会話は無かったが、ゆっくりゆっくりと歩いたその道のりは想像以上に居心地が良かった。わたしは女子のグループの元には戻らず、そのまま彼の隣の席に着く。なんだか、彼といるのは楽なのかもしれないとふと思ったからだ。影山くんはぽつりと漏らすように尋ねる。土曜日は暇か、わたしはその問いには答えずに首を傾げた。

「試合やんだよ」
「へえ、」
「見に来ねえか」

なんでわたしが。そう思ったけれど生憎特に用事もなく、彼とぱっちり目が合ったころには頷きかけていた。なんかみょうじって、人のこと元気にさせる力があるような気がする。そんな意味不明なことを呟いた彼が少し面白かった。わたしにそんなものはないし、そんなつもりもさらさらない。慣れない環境と、上手いとは言い難い彼のコミュニケーションの取り方に少し苦笑いした。彼や、さっきのバレーをしていた子達のこれからの青春を少し羨んだ。わたしにはもう起こるはずのない葛藤と、彼らは戦ってゆくのだろう。わたしは頷いた。

「たのしみにしてるね」

心にもないことを口走った都合のいいわたしに、影山くんは意外にも笑ったのだった。

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